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BASARA≫≫SHORTSHORT
鬼の宝



『お、鬼…!鬼だーー!!』

中国に程近い山の中、傷を負った兵が闇に向かって叫んだ

「…鬼の宝に傷を付けた事、あの世で後悔するんだな」

静かな慈悲を思わせる青い目と対になる筈の左の目は、地獄を見据えるかの如く、赤く、闇夜に浮かんで見えた―――…





戦から戻った元就を見て、思わず俺は顔をしかめた。

いつもは涼しい表情で戻って来る元就が、疲労と血糊をこびりつかせた顔で俺を見上げたからだ。

どうやら今回の戦は自慢の知略も功を奏せず、苦戦を強いられた様だ。

鼻で笑ってやれば、苦々しい顔で『無駄な圧勝は不要』と、本心か強がりかは解らないがそう言った。

ふと、萌黄の衣の脇腹の部分がさっくりと割れ、そこが微かに緋に染まっているのが見えた。

「おい、これ…」

「かすり傷だ」

まさか斬られたのか、と問えば、それを言い切るより早く元就はさらりと言い放つ。

細い体を引き寄せ腕の中に閉じ込めたが、疲労のせいか抵抗らしい抵抗を見せない。

衣を捲くり上げれば渇いた血で衣が皮膚に張り付き、ピリリと音を立てて剥がれた。

衣が裂かれた場所に薄い斬り傷。

確かに生死に関わる様な大きな怪我では無いし、すでに血も止まっている。

「…こりゃ跡が残るかもな」

指先で傷を辿り、擽ったいのか身をよじる元就を抱き上げた。



心底不愉快だと物語る視線を無視して、元就の体を畳の上に転がすと上にのしかかり、再び衣をたくしあげる。

まるで襲ってるみたいだな、と喉の奥に込み上げる苦笑を飲み込むと、乾いて肌にこびりついた血を舌で舐め上げた。

血と、汗の味が口に広がる。

「っ…!」

擽ったいのか、それとも傷が滲みるのか、また別の理由か…俺の頭を引き剥がそうとする元就の腕を押さえ付け、更に舌を這わせてすっかりその傷を舐め尽くす。

舌先に感じたいびつなそれはあまりにも不愉快で、軽く噛み付いた。

「俺に断りも無く傷なんか作ってんじゃねぇ」

口の端に零れた唾液を舐めながら、元就のほんのりと涙を湛えた涼やかな瞳を覗き込む。

「勝手な、事を…」

そう俺を睨むと、糸が切れた様に眠りに落ちた。

「おい、元就?」

寝息を立てる元就の頬を軽く二、三度叩いたが起きる気配を見せない。


気ぃ張ってたんだな…。


衣を直して髪を撫でてやる。
元就が深く眠っている事をもう一度確認し、ちらりと障子の向こうを見遣った。

「…―――おい。残党がいねぇか調べろ」

障子の向こうで人の気配が動く。


誰であろうとお前に傷を付ける事は許さない。

―――お前は、俺の宝だ。

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