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BASARA≫≫SHORTSHORT
宵闇の月 3



情事を終えた気怠い空気を纏い、白い肌に着物を羽織っただけの毛利は空に昇る禍々しい、大きな満月を見ていた。

「月が気になるのか?」

月の光が簪に反射した眩しさに、オレは僅かに目を細めた。

「………今宵は、鬼が来るやもしれぬ」

「な―――…」

何、と問う前に耳慣れた足音が酷く慌てた様子で近付き、襖の向こうで止まった。

「政宗様!」

「どうした、小十郎?」

「中国が…落ちました…!」

「な、に…?!」

視界の端で、月を背景に唇の端を微かに上げて微笑みながら簪を抜いた毛利が髪をはらりと落とした瞬間、月を切り取った明かり取りのある壁が土煙を上げて崩れた。

「政宗様!!」

音を聞いた小十郎が、刀を抜いた姿でオレの前に身を翻す。
立ち上る土煙が消えた後、その目の前には大きな月を背負った銀の髪の―――鬼。

「…遅れたな、元就」

「元親…」

毛利は手を伸ばしてその広い胸に縋る。
鬼はその細い体を武器を持たぬ片腕で抱き留め、愛しそうに毛利の唇に口付けた。

「テメェは、長曾我部元親…西海の鬼…!」

Shit!
この女………鬼を飼い馴らしてやがった!!

小十郎から刀を奪い、斬り掛かるオレの目の前に長曾我部の巨大な槍が突き刺さり、行く手を阻む。

「甘いんだよ、クソガキが」

ニヤリと口を歪め、長曾我部は鬼の牙を思わせる犬歯を覗かせた。

その腕の中、毛利は静かに言い放つ。

「…中国は、我が手に戻った」

その瞬間、オレは全てを悟る。


戦況が不利になった時、散り散りに逃げ出したと思われた毛利の兵は四国へと渡り、長曾我部の元へ潜伏した。

毛利は自分が女である事を利用し、オレに囚われる様に仕向けた。
自害を謀ったのも、反抗を見せながらもオレに屈服して見せたのも、全て時間稼ぎ―――オレの目を政から自分に向けさせる為。

そうしている間に、長曾我部と長曾我部の元に隠れていた毛利の兵が中国を奪還する。
大将の居ない伊達軍はあっさり落ち、そして中国は毛利の手に戻る。


………オレは、まんまと毛利の策に嵌められた。


愕然とするオレの目の前で、長曾我部は腕の中の毛利の髪に頬擦りする様にその体を抱き寄せた。
そして、槍を一振りすると二人の姿は夜の闇に消えた。


夜の静けさを取り戻した部屋の中、巨大な長曾我部の槍が刺さっていた跡に光る小さな物を見付けた。
オレはそれを拾い上げる。

それは、オレが毛利に贈った銀の簪―――母の持ち物だった物だ。

「…小十郎、オレは女運が悪いらしい」

小十郎は、何も言わなかった。



愛した女は、オレの元を離れていく。
それを不幸だとは思わない。


ただ―――少し、退屈なだけだ。

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