BASARA≫≫SHORTSHORT
愛のど真ん中
「我が名はサンデー毛利、愛に目覚めし者!」
……………はぁ?
「…マジかよ?」
「長曾我部元親、貴様にザビー様の愛を教えてくれようぞ!!」
輪刀振り上げる姿は間違いなく毛利。
敵味方関係無く技に嵌めたり、ザクザク斬ってたり。
どこが愛に目覚めたんだよ?とか突っ込みたい位に確かに毛利なのに、愛とかサンデーとか言ってるよ?あの緑。
何、これ?
何の冗談だよ?
………つーか、俺があんなけ言っても耳を貸さなかった毛利が、何であの怪しい河童ハゲの言う事をあっさり受け入れてんだ?
俺よりも信じるに値すんのか?あの河童ハゲは?
つまり俺よりもあの河童ハゲが良いのか?!
………あれ?
何これ、何この気持ち?!
お宝を探してこの城に乗り込んで数刻後。
俺は取り敢えず逃げていた。
何か………もう、色々と向き合うのに頭が拒否を示したからだ。
「待て!長曾我部!逃げるとは卑怯ぞ!!ザビー様の愛を受け入れぬか!!」
「嫌なこった!野郎共!全力で逃げろ!!」
毛利の口から『愛』とか訳分かんねぇし!
それ以上に自分の考えが訳分かんねぇし!
何か後ろから緑色の妖精っぽいのが追い掛けてきたが、俺は『幻覚だ!』と自分に言い聞かせ、必死でこのヘンテコな城から逃げた。
現実からも逃げた。
必死で逃げて四国の城に生還できたのは奇跡かもしれない。
まさか海を越えてまで追っては………あ、ヤベェ…!
あいつ水軍持ってるよ!
四国まで来れちゃうよ!
しかも毛利の水軍ってウチの水軍より強いし!
いや大丈夫だ…岡豊城は守りに長けてる!
ありがとう、御先祖!!
いざとなりゃ、からくりを出して………。
ぶつぶつ呟く俺に、野郎共が『アニキ〜』とか情けねぇ声を上げてるが、今一番情けねぇのは俺だから。
分かってるから。
もう泣きそうだから。
姫若子で良いから。
「あ、アニキ客人が…」
何?!もう来たのか?!
無理だ、無理!!
「お、追い返せ!有りったけのからくり出して追い払え!!」
「あ、いや…前田の風来坊で…」
「………前田?」
部屋の隅で震える俺に脳天気な声。
「よう!鬼さん、船乗っけてくれ…って…あれ?どうかしたのかい?」
前田が来たお陰で何とか落ち着きを取り戻し、現実を受け入れる余裕が出来た。
その証拠に前田の風来坊に事の成り行きを説明できてる。
そう、あれは現実だ。
受け入れろ、そして対策を考え………。
「つまり、毛利に恋したって事かい?」
「言うな!何にも聞きたくない!」
認めるもんか!
あれは幻覚だ!!
アレは毛利じゃなくて緑色の妖精だ!!
俺は緑色のいたずら妖精さんに騙されたんだ!!
俺は耳を塞いで前田の言葉を頭から消した。
「こりゃ面白そうだね」
「面白いもんか!つーか、何であんな気持ち悪い状態の奴見て恋とか連想するんだ?!」
「それが恋ってもんさ」
いや…いくら俺があんたより色恋に疎くても、それが恋の定石じゃねぇ事くらい分かるぞ?
もしかしてこいつ、恋とか言いたいだけじゃねぇの?
「こうしちゃいらんねぇ!一刻も早く恋しい人を助け出さねぇと男が廃るよ!」
「はぁ?!あんた今の俺の話しを聞いてたか?!」
「やっぱ恋って良いもんだよな!」
「あんたやっぱ恋とか言いたいだけだろ?!頼むから恋以外の話しも聞けよ!!」
「ほらほら、行くよ!」
「えっ?!ちょ…マジかよっ?!」
くそっ………何で俺はここに戻ってきてんだ?
何だかんだと前田に言われてここまで引っ張って来られた。
あの野郎………絶対に友達辞めてやる。
「ようこそザビー教へ!入信希望の方は…」
「てめぇに用は無ぇ!」
河童ハゲの手下なんざ相手にしてられっか!
弩九で雑魚を吹っ飛ばしながら奥に進む。
「なんて乱暴な!愛の無い行動には天罰が下りますよ!」
うっせぇよ!
もう自棄だ、自棄!!
雑魚には目もくれず、一気に毛利の居る奥へと向かった。
「おお…ザビー様……」
………相変わらず河童ハゲを崇めてやがる…。
「よくぞ戻ってきたな、長曾我部。今こそザビー様の愛を知るが良い!」
「嫌なこった。そんな不細工河童の愛なんかいらねぇよ」
「おのれ、ザビー様を愚弄するか!!」
毛利はご自慢の輪刀を後ろ手に構えて、臨戦体制を取った。
「そんな愛より、俺が本当の愛を教えてやるよ」
毛利が俺の言葉に驚きを見せた一瞬の隙をついて、毛利の細い腕を引っ張った。
「な…っ?!」
毛利が握っていた輪刀は、弾みで地面に落ち派手な音を立てる。
毛利の華奢な体を俺の体に引き寄せ、動けない様に腰に手を回す。
力の差は圧倒的だ。
体の動きを封じちまえば妙な技も使えねぇし、こっちのもんだろ?
計算してないとか何とか言いながら、暴れる毛利の頤を持ち上げた。
「愛してるぜ、元就」
「あ…愛…?」
ご自慢の頭の思考が止まっている隙をついて、俺は元就の唇に熱い接吻をかましてやった―――。
「元親、愛とはかくも難しいものだな」
「ああ…そう」
「ザビー教の教えにある愛と、元親の言う愛は違う気がするのだ」
「そうそう。違うから俺はザビー教には入れないんだよ、分かったか?」
「ふむ…残念だ………」
相も変わらず緑色の妖精は怪しい宗教に嵌まってるし、隙あらば俺を河童ハゲの所へ連れて行こうとする。
つまり、俺の愛はいまいち俺の希望通りに伝わっちゃいねぇ。
大体、接吻の直後に、
『これと愛に何の関係があるのだ?』
…と真顔で言われた。
いくら俺でもへこむだろ、オイ。
「元親、何をうなだれておる?」
「別に…日差しが強ぇなー…と思ってよ」
「ならば俯かずに上を見上げぬか!日差しは日輪の加護ぞ…おお…日輪よ、この幸せ………」
今度は日輪かよ!
たまには俺の事も見ろよ…―――何てな。
でもまぁ…二人で縁側で茶ぁ飲んで名前で呼び合ってるだけでも進歩か?
………先は長ぇが、こっから始めんのも悪かないだろ。
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