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BASARA≫≫SHORTSHORT
別れの夜



「…また国を空けるのか」

呆れた声色の元就に、元親は悪びれた風もなく『おうよ』と答えた。

どの辺りなのか、どのくらいの期間なのか―――元親は楽しそうに話すが、その予定通りになった試しはないので頭に入れてやるだけ無駄だと、元就は話しを無視して酒盃に注がれた酒をちびりと舐める。



豊臣が徳川の手により滅ぼされたという知らせは瞬く間に日の本を駆け抜けた。

最後まで豊臣に下る事を拒んだ中国と四国にとっては一つの、そして最大の脅威が過ぎ去った。

豊臣からの侵略を退ける為、長い間陸から離れられずにいた元親にとっては久々の大海原。

暫しの別れの前にと酒を土産に元就を訪ね、月を肴に酒盃を交わす。



ひとしきり海へ馳せる想いを語った元親は酒で喉を潤すと、一緒に飲んでいるというのにまるで居住まいを崩さないでいる元就に熱い視線を絡ませた。

「たまには、別れを惜しんでくれても良いんじゃないか?」

ちらりとその視線を一瞥し、元就は少しだけ考える様子を見せる。

「………そうだな」

酒盃を置くと唇を濡らした酒を赤い舌先で舐め、猫のようにしなやかにそろりと元親に擦り寄った。

だらしなく開いた袷に躊躇いなく手を差し込み、男らしい筋肉の隆起に指を這わせると、脇腹に走る傷痕に小さく爪を立てて首筋に唇を寄せる。

「おいおい、ずいぶん積極的じゃねぇか」

元親は擽ったさに身をよじるも元就の体を退かそうとはせず、薄い体の線を着物の上からなぞってその行動に熱を注ぐ。

『別れの夜ゆえ』と、元就は口元だけで笑った。

気を良くした元親は、元就の体を引き寄せ帯に手を掛けた。

衣擦れの音と共に蝋燭の炎が揺らめき、映し出す影が妖しく重なり合った。



「じゃあ、行って来るぜ」

「…息災で」

元親を送り出した元就は、その足で九州の黒田の元へと赴いた。

『息災で』―――それは本音だが、二度と帰って来なければ良いとも思う。

元親が長い航海を経て帰ってきた時、そこに見るのは絶望以外の何物でもないのだから。

恨みと悲しみを抱き慟哭する鬼の姿を、果たして心を動かさず見ていられるだろうか。



見上げた空は嫌味なほど晴れ渡っていた。

元就は日輪に祈る。

毛利の安寧のみを、ただひたすら呪文のように。

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