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BASARA≫≫SHORTSHORT
鬼哭



目の前の惨劇に、輪刀を握る手の力が抜ける。


戦場に転がるは毛利の旗印を背負った兵ばかり。
未だ長曾我部の重機は唸りを上げて、最後の一人までをも食らい尽くそうとしている。


何故だ…何故このような事を。


同盟を結んでいなかったとはいえ、長曾我部との関係はそう悪いものでは無かった。

何が良かったのか我に熱を入れあげ、鬱陶しいくらいに我の元に通い詰めていたその男が。


近づく轟音に、刃の欠けた輪刀を握り直す。

だが、はたしてこれを振り上げる力は残っているだろうか…。

疲弊した我の前に立ちはだかる長曾我部の顔は、宝を手に入れた鬼のそれだった。

「やっと、あんたを手に入れた」

ニヤリと歪んだ口の端から牙を覗かせながら言うそれに、我はようやく長曾我部の真の目的を悟る。


馬鹿め…そうして我を手に入れた所で、何も貴様の思い通りにはならぬのに。


鬱陶しいくらいに通い詰めるだけで満足する男では無い。
子供の様な無邪気さの奥に、鬼の残忍さを秘めているのを知っていた筈だった。

この惨劇は、それを知りながら何も策を講じなかった我の罪だとでも言うのか。

「…愚かな…」

呟いた言葉は、果たしてどちらに向けたものか。

我の手から、輪刀は音を立てて離れた―――…




安芸の地は蹂躙され、城は落ちた。

我に面立ちの似た毛利の家臣の首が我の首の代わりに掲げられた時、これで名も奪われたと感じた。

毛利元就は、長曾我部元親に討たれたのだ。

そして信仰さえ奪われた。

日輪の光など入る事の無い地下牢で、長曾我部に囲われるだけの『物』に成り下がる。


大きくて無骨な手が、思わぬ優しさで我の顔を包んだ。

持ち上げられるままに顔を上げ、紺碧の色の独眼を見る。

蝋燭の仄かな明かりを含んだ、欲に捕われた色が我を映す。


いつからその様な目で我を見るようになった。
どうして、我は気付かなかった。


何も言わない我に焦れたのか、長曾我部は我の首筋に舌を這わせた。

「あんたを愛してるんだ」

耳に吹き込まれる言葉に目眩がする。


いくら愛を囁こうとも、もうこの関係に何もありはしない。


熱くなる体とは裏腹に、頭はどんどん冷えていった。

ただじっと、この行為が過ぎるのを待つ。



貴様に何をやれなくても、この心だけはくれてやろうと決めていたのに。

貴様が全てを奪うから、心だけはやれなくなった。



ただ一筋、涙が頬を伝った。

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あきゅろす。
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