Novel 勇♀×ピサロ中心
彼方
「お主のそのような出で立ち…何とかならぬのか」
「つっ…」
不意を突かれたあたしはカッとして振り返った。
「あたしは…あんたがあたしの村をあんな風に…あんなに酷く滅ぼした時から女を捨てた。あの日からあんたを殺すためだけに生きてきたから。あたしは男よ。飾りなんていらない。あんたの…後生大事なお姫さまと違ってね」
ぎらり。一瞬だけ紅い瞳が光る。
でも、そんな事であたしは怯まない。
「お主とロザリーでは生まれも役割も違う。
お主ーー、一つでは足りぬか。」
いつの間にか間合いをとうに超えてるとというのに、あたしの手は剣にも触ってやしない。
彫刻のような切れ長の瞳がゆらり、揺れたような気がした。
「なんの…はなし?」
動揺したあたしは、ぐらぐらする視界に首を振って振りきる。
「あ奴を倒した後にお主が私を斬ればよい」
「よい、って…。」
光が戻ったら、あたしはふてぶてしくロザリーと一瞬に去っいくんだと思ってた。そうしたら、あたしがーーーこいつを殺してやるって。仇を討ってやろうって決めていたから。
「じゃあ…じゃあ、ロザリーはどうなるの?」
口をついて出た、あたしの失言に、自身の口を両手で被う。
「それはロザリーが決める事だ」
「でも…ロザリーはあんたのせいで死んで…蘇ってあんたを助けた。救った。そうしたらあんたの命はロザリーのものじゃないか」
「そうかも知れぬ。だが、贖罪も叶わぬほど血を浴びた私に他に何がができよう。闇がなくては生きる術もない。光なき世界にお主らが住めぬように、また」
「どうして…何のために」
呟きが洩れてしまったけれど、そんな事はどうでも良かった。殺すつもりでいた男が、自ら殺せ、など…。
視線を逸らすあいつに、驚きとも怒りともつかない感情に、あたしは拳を握り締める。
「馬っ鹿じゃない」
「私は愚かだ」
ピサロの顔色が歪んだ…ように見えてあたしは慌てて背を向けた。
「だが…それでは風邪を引く」
歩き始めたあたしに上等そうな肌触りのあいつの黒衣がふわりとかけられた。あたしはそれを払い除ける力も出ず、一歩ずつゆっくり踏みしめた。
ピサロの気配がすっかり消える頃、熱くなった瞼に堪えきれれず、一つ、また一つと流れたものに、あたしの涙は何故ルビーじゃないんだろうと、手に落ちる滴を見つめながら、そんな事ばかり考えていた…。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!