願い
そこは小さな集落の、魔物やホビットなどが集う村での、小さなお話。
…………
微かに響いてくる、小さな歌声。
その声は消え入るかのような、か細く、頼りなく、それでいて途切れ途切れに紡がれていた…。
ここは、教会。この村で一番大きな建物であり、高く聳える塔と一体化している。
「ロザリー様だ」
一人のホビットが呟き、教会に集う者達もざわめき初めた。
日に一度、ほぼ同じ時間に、それはそれは小さな声で、聴こえてくる、歌声。
彼らは、その歌声によって、彼女の無事をも知る。
何故ならば、悪しき者にその身を狙われているからだ。
その存在を、外部の者に知られてはいけないからだ。
その身は、皇子のたいせつなものだからだ。
時には、沈んだ声で、
また時には、軽やかな声で、彼女は唄う。
愁いの歌を。物語を。聖歌を。歓びの歌を。
誰もが魂をも奪われてしまうかのような澄みきった、麗しい声で…。
歌声が止み、少しの静寂の後、一匹の魔物が遮った。
「いいなあ ピサロ様は。ロザリー様って、どんな顔をしているんだろう」
一匹が口を開くと口々に、
「そうだよなあ、俺らはこの村に来たばかりだから、見たことがないんだよなあ…ああ、どんなお顔をしておられるのか気になる!」
「俺は長い事いるけれど、まだ見たことがないんだよな…!」
「ええっ?!そうなのか!」
一匹の魔物が、意外な事を云ったので、その場はどよめきに包まれた。
もう一匹の魔物が物云う前までは。
「俺、見たことあるよ」
一匹の魔物が云うと、皆、一斉にその魔物を見やった。
ごくり。
緊張が走る。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!