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※刻む傷



からん。




鈍色に光る金属が、ゆっくりと、地に落ち、音を立てて、くるくると廻りながら、やがて止まった。



その瞬間、彼女は、激しく失望と後悔に苛まれた。



なぜなら、彼は、彼女の手首を固く掴んでいたからだ。


彼女は、ー彼を、亡きものにしようと目論んでいたから。


その事実は、彼女の行為が失敗に終わった事を明らかに証明していた。



娘の力が抜けると同時に、もう一方の手が、彼女の腰を支えた。


崩れてしまったら、落ちたナイフも拾いかねない。



彼女は、己はもうおしまいだ、と絶望にかられた。


胸元にそっと忍ばせたロザリオを握り締めて、固く目を閉じた。終焉を覚悟しながら。



次の瞬間、予期せぬ事が起きた。



「え?………っっ!」

妖魔は、彼女をじっと見つめたかと思うと、恐怖におののくその震える唇に、そっと口づけた。


まるで、幼き子に窘めるかのように。


動揺を隠しきれないまま、まだ不安を拭い切れない彼女に、彼は囁いた。


「仕置きだー……」

その細く、白い頸の横、装飾品が連なるその間を、軽く咬んだ。


「…………いっ…!」


「どうしたのだ?」

咬むのを一瞬やめ、怯える彼女に冷ややかな視線を流す。


「………っ…」
その一瞥に、何か冷たいものが広がっていくような気持ちを覚えながら、躰を堅くする。



こんな……!


新たな一面を知りながら、彼女はされるがままになる。


不思議と、血は滲むだけなのに、傷跡はどんどん増えてゆく。彼によって。



さほど痛む訳ではないが、これからどうなるのかという恐怖の方が先立って、顔が歪んだかと思うと、そのエメラルドグリーンの瞳からは、はらはらと涙が零れる。そして、それはきらきらと光るルビーの涙となって、広がる。


彼は、彼女の変化に気づき、宝石となる前のその涙を、指先で掬い取り…、密を舐めるかのようにそれを口に運んだ。


「そなたが悪いのであろうが…」


妖魔は薄く笑い、抱き寄せ、ささやかな抵抗を示す彼女に、露ほども動じず、

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