SS 毒(小十佐) じわじわと蝕む。 其れは毒。 「おい!猿飛!しっかりしやがれッ!」 「ぁ……こじゅろ、さん…?」 浅く早く呼吸を繰り返す佐助の目にぼんやりと映ったのは、眉間に深く皺を刻んだ小十郎だった。 急速に勢力を伸ばしてきた織田を止めるべく、一時的に奥州と甲斐は同盟を結んでいた。ろくに関係を結ばないままの早急な同盟に兵の中には疑問を抱く者もいたが、政宗と幸村の強固な信頼に、兵のそれは直ぐに消えていった。 佐助と小十郎が出会ったのもこの時である。互いに『敵』として警戒しながらも、背を預けるには十分な相手として認め合っていた。 そして今がその織田との戦である。互いの主…幸村と政宗は恐らく前線で暴れているのだろう。共闘の戦は初めてだと云うのに、二人の呼吸はぴったりと合っていた。任せておいても大丈夫だろうと踏んだ佐助と小十郎は、互いに背を守るように敵陣に向かっていた。 その時の事である。 いつの間にか潜んでいた忍が佐助に向かってクナイを投げ付けた。一瞬反応が遅れた佐助の頬を、チリッとそれがかすめていった。 舌打ちをひとつし、その忍を追っていた小十郎が戻ってきてみれば、佐助の身体は力無く地に転がっていた。 「ちょっと、ヤバ、い…かな…」 ひゅうっ。と、危なげに息を吸う。 「……毒、か」 確信を持って問うと、茜の髪が小さく上下した。 忍の体はあらゆる毒に耐性があると小十郎は聞いていた。そして、佐助のような優秀な戦忍なら尚更。疑問に口を開こうとするが、その前に考えを汲み取ったように佐助が口を開いた。 「たぶん、これ…南蛮の、毒だよ…。…俺、さま…こんなの、知らない、も…ッ!?」 「猿飛!!」 その毒の症状は急に現れた。話している佐助の身体が大袈裟なくらい震え出したのだ。いや、震えるなんてものではない。痙攣に近い震えだった。 ガタガタと震える佐助をキツク小十郎は抱き締める。何故こんなことをしたのか小十郎自身にも分からなかった。単に震えを止めたかっただけかもしれない。もしくは………。 腕の中の佐助の震えは段々小さくなっていく。それと同時に、肺も、心臓も、動きが小さくなっていく。 ヒュウヒュウと呼吸する佐助に、小十郎がしてやれる事は何もなかった。 「かた、くら…さ…」 「もういい、喋るんじゃねェ!!」 死を目前にしている者とは思えない笑みを、ふわりと浮かべて。 「ごめ…ね…」 「猿飛…?」 ヒュウッと最期の息を吐いた。 その肺は心臓は、もう動かない。 「猿飛…猿飛……ッ、佐助ェッ!!!!」 どうせ侵されるのなら、貴方との恋に侵されたかった。 苦しいほどの焦燥。 溶けそうな情愛。 貴方との毒に侵されたかった。 End. [次へ#] |