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シリーズ有心論@


僚香(原作程度)





ああ、怒った顔でこっちを見ている可愛いひと。



「ちょっと、今何時だと思ってるのよ」

「さあ?時間なんて気にする細かい男じゃないからボキ」

「…ふん。ご機嫌でまぁ。いいご身分ね」

日付が変わって数時間、すっかり寝静まったアパートの階段を音も発てずに上がって来たというのに、ドアを開けたらこれだ。
俺のことなんか気にせずさっさと寝てしまえばいいのに。

「うっぷ、酒くさ!とっととお風呂入っちゃいなさいよ」

「えーやだー。もう寝るんだも〜ん」

「やめてよ家中に臭いついちゃうじゃないの!」

頭を叩かれ、しぶしぶ浴室に向かう。

脱衣場で脱いだシャツを嗅いでみると酒と女とタバコの香りと。

「…我ながら見事なカムフラージュだな」

心配するような臭いはしなくて、ホッと息をついた。もちろん、そうあるべく注意深く消してきたのだけれど。

―ざぱん

「くぁ〜…」

簡単に体を流し、まずは湯船にどっぷり浸かった。深夜にもかかわらず十分な温度を保った湯に、女の気づかいを感じる。


「…やっぱ、知ってるんだろうな」


水面からゆらゆら登る湯気をぼんやり見つめて頭をかいた。かすかに鼻をかすめた、硝煙の香り。
ち。まだ処理が甘かったか?


「僚ー!タオル新しいの出しといたからね!」

「さーんきゅかおリン。一緒に入るかぁ?」

「ッ!誰がッ」

噛み付くだけ噛み付いて、ドア越しの気配はすぐに消えた。



香は、いつも香らしく振る舞う。
どこからともなくハンマーを出現させる超常現象のことを除けば、セールが好きで、ヤキモチやきで、表情豊かな彼女はごく普通の女。常識から逸脱した日陰の世界に身を置いていても、香は自分らしさを貫いている。
そう。
このまま香も自分と同じ世界で生きていくのだと、僚が錯覚する程に。

例えば、今日のように人を殺めて帰って来ても、例えば会社勤めの帰り道に一杯ひっかけて帰って来たのだとしても、迎える香の反応は変わらないのだろう。
彼女の前で、僚はただの人間でしかない。


「…困るなあ」

ぱしゃん、と顔に湯を叩きつけた。
体を洗ってもこの手の赤は消えやしない、わかっている。わかっているのに、


「家庭って、こんな感じなのかねー…」


まっさらな人生を送る一般人のごときささやかな幸せ。
香に教えられたそれが何だか無性に哀しくて、湯船に映った顔はまるで泣き笑いのようだった。







RADWIMPS/有心論「君は人間洗浄機」






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