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rain show













依頼がないせいで経済状況が芳しくないのもなんのその、いつものように僚が飲みに行ってしまったから、香は1人だった。
外は雨。出かければ濡れてしまうだろうに、よくやるもんだとため息をつく。
雨はあまり好きじゃない。買い物は億劫だし、洗濯物は乾かないし、くせっ毛がまとまりづらいし。

「…いい思い出もないし。」

無意識に呟いて、顔をしかめた。口に出すといっそう気分が沈む。
秀幸がいなくなったのも雨の日だった。だからだろうか。雨が降っているときに僚がいないと、落ち着かない。ただ遊びに出ているだけだと知りながら、もう帰ってこないのではと不吉な思いがわきあがる。
頭を振り、気分転換にコーヒーでもと立ち上がったとき、聞き慣れない音が耳をかすめた。

「?」

香は1人だ。間違いない。もし僚が帰ってきたのなら音がする場所は玄関のはずだが

「!」

音は上から響いてくる。思い浮かぶのは、苦手なアレ。もしや、今まで僚が始末してきた奴らの…?あたしは無関係よ!祟るなら本人して!!
怯えた香は白状なことを考えながら自分の部屋に引きこもってしまおうかとして思いとどまった。侵入者の可能性もある。いつぞやのお経シャツを引っ張り出し恐る恐る階段に足をかけた。

「怖ーくなーい♪怖ーくなーい♪」

気を紛らわすため昼間見たお笑いコントの歌を小声で口ずさみながら足を動かす。
首筋にヒヤリとしたものが触れた。

「ぎゃああああああ!!!」

悲鳴をあげ夢中で首のまわりを払う。手に触れたぬるりとした感触に涙目になりながら、気付く。

―…タッ

先ほどからの音がはっきりと聞き取れた。

「雨漏り?」

首筋に落ちてきたのは水だった。あれほど怖かった奇妙な音も正体はこんなものらしい。
自分の騒ぎっぷりを思い返し、僚がいなくて良かったと思う反面、僚がいればこんな思いはと少々憎らしくなる。
ともあれ、水が落ちるのをそのままにしておくわけにもいかない。なにか受け皿を…ときびすを返すと

「きゃっ!?」

とたん、再び水滴が落ちてきた。今度は別の場所からだ。

「え…ちょっと待って何ヶ所から落ちてるのよ」

いくらボロアパートだと言ってもこんなにひどい雨漏りは初めてだ。だが考えてみれば夜這い防止のトラップやハンマーの被害、プロペラ機の事故など家が痛む原因は山盛り。アパートにガタが来るのも無理はない。
それもこれもアイツが悪いのよ!もはや完全に僚に怒り心頭した香は、受け皿を全て彼の食器でまかなった。不気味だった雨漏りの音が、陶器にあてると途端に可愛らしくなる。
カップに茶碗に湯呑みにお椀。それぞれ違う音を立てるから、なんだか楽しくなってしばらくその光景に見入る。

―僚ったらバカみたいに食べるからお茶碗も大きいわね。
―あのお椀奮発したのよね。きっと気付いてないんだろうけど。
―インスタントコーヒーの美味しい入れ方なんて語ってたくせに、このカップにしてからはちゃんと淹れたのしか飲んでないのよねえ。

なんて。思い浮かぶのは僚のことばかり。食器が賑やかに音を立てるから、まるでアイツと会話してるみたいとか思っちゃうあたしは相当重症ね。
苦笑いがこぼれるが、気分は悪くない。僚を心配する気持ちは相変わらずだが、焦燥感はなくなっていた。

体が冷えるのもかまわず音を楽しみ、やがて、食器はそのままに自分の部屋に戻った。
明日晴れたら、すぐ僚に修理させよう。けど雨だったら、今度はあたしの食器も混ぜてみようかしら?そしたら2人がお喋りしてるみたいじゃない、と乙女チックなことを考える自分に顔を赤らめ、香はベッドに入った。












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夜中に帰宅した僚ちゃん、床に投げ出された(ように見える)食器を見て何を思うのか。笑

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あきゅろす。
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