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鱗雲が赤く染まったと思うと、あっという間に夜の帳が降りてくる。つい最近まで残っていた夏の気配が消え、街はすっかり秋を迎えた。
吹く風も少しずつ寒さを増している。もう、コーヒーが美味しい季節だ。


―カラン


「あら、いらっしゃい冴羽さん」


見慣れたドアを開けると、美樹の笑顔が僚を出迎えた。目の保養にふさわしい美しい顔にだらしなくにやけながら、いつもの席に陣取る。
今日は場所をとる大男がいないぶん、馴染みの店が広く見えるようだ。


「「1人なんだ?」」


尋ねたのは、2人同時だった。
クスクス笑いながら「そうよ」と美樹が答えるのを聞いてから問い掛ける。


「ボキも見てのとおり1人だけど、なんで?」
「今朝、オシャレした香さんが前を通ったから、デートかしらと思って」


聞いて、僚は顔が引きつるのがわかった。
いつもあんなに否定しているのに誰もかれもが僚と香ができていると思っている。
不満だ。実に不満だ。
がっくり肩を落としながら、しっかり否定しておく。

「違うから、美樹ちゃん。あいつは今日高校の同級生と遊び行ってんの」
「えー」


不服そうに声を上げるのを見て、やっとわかってもらえたかと思えば、


「けど、香さんのスケジュールをバッチリ把握してるのね。さすがだわ」


たちまち笑顔でこれだ。敵はなかなかに手強い。


「そんなんじゃないって」


これ以上反論するのも面倒くさく、釈然としない気持ちをコーヒーと一緒に飲み込んだ。
話は終わりだと態度で示したつもりだったが、しかし、美樹には露ほども通じなかったらしい。
大きな目はますます輝いている。


「冴羽さん、はやく素直になっておかないと後悔するわよ」
「一体何に?」
「もう!はぐらかしてもだめなんだから!」
「そ〜だなぁ。美樹ちゃんにもっと早く素直に愛を告げてたら、みすみす海ちゃんなんかに渡さなかったんだけどなぁ」
「それはいいから。香さんよ香さん」
「だから、香なんかどうだって」
「あ。噂をすれば」


突然、不毛な言い合いが途切れる。
美樹の言葉と視線につられて窓越しに通りを見ると、20代前半とおぼしき男女の一団が通り過ぎるのが目に入った。
その中には、噂の中心人物の姿もある。
楽しげな笑い声だけ余韻に残し、一団はあっという間に見えなくなった。


「…」
「…」
「…ほら、見なさい」


静かに、だが得意気に美樹が呟く。


「…なにが?」
「油断大敵ってこと」


ふふん、と鼻を鳴らす様子はご機嫌そのものだ。


「肩組まれてたからなんだってんだ」
「あら!そこが気になった?あたしとしては、話すときの顔と顔の近さが気になったわ!」


美樹の言葉でその情景を思い出し、眉間にいっそう皺がよる。

香は、出掛けるときに「高校の友達と会ってくる」とだけ言っていた。相手が女とも男とも言っていないし、僚も聞かなかった。


(だってそんなのはどうでもいいだろ)


実際は男女混合で、しかも肩を組んだり至近距離で語らうほど親しい男友達がいたことも目にして初めて知ったことだった。


(でもそれがなんだってんだ)


胸のざわつきを黙殺するのに躍起になっていると、気がつけば実にキラキラした表情で美樹が顔を覗きこんでいた。


「…なあに?」
「別に?」


別に、なんてよく言える!
言葉以上に雄弁に、満点の笑みが「それ見たことか!」と語っていた。







********
あんなに男前な香ちゃん。絶対男友達多いと思うんです。異性として意識しなかったら、スキンシップも平気でこなすと思うんですよね〜。
男の人を相手してるのに、ガッチガチに緊張するどころか親しげに触れ合う姿を見て、焦ればいい。
そんな妄想でした。

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