本日、未熟者
幼なじみパラレル
大学生僚ちゃんと高校生香ちゃん
それは、完全に成り行きだった。
香が街中で絡まれることは少なくない。
ただ、自分で何とか出来るくらいの腕っぷしを持っているし(嘆かわしい!)、頼もしい用心棒(例えば槇ちゃんとか、ミックとか…俺とか)が傍に控えていることがほとんどだから大事には至らない。
だからだろうか。
ガラのよろしくない野郎どもに取り囲まれて、珍しく焦った表情の香を見たとき、一瞬で頭が真っ白になった。
そうでもなければこんなことを口走ったりするわけがない。
「こいつは俺んだよ!勝手に触るんじゃねえ!!!」
こんなアホなこと、自分の口から出るなんて思ってもみなかった。
***
男たちを蹴散らした頃にはとっぷりと日が暮れていた。
香の顔を、街灯が照らす。そこにははっきりと「気まずいです」と書かれている。きっと自分の顔も同じようなものだろう。
「…ありがと」
それでもきちんと礼を言うのは育ちの良さか気立ての良さか。まぁ、きっと両方だ。
「どういたしまして。…ちょーっと大人気ないことしちゃったかなー。ハタチにもなって高校生にケンカ売っちゃったよ僕ちゃん」
お行儀のいい幼なじみに比べて、どうだ?
おちゃらけずにいられない肝の小ささよ。自分で自分が嫌になる。
しかし、苦し紛れのおふざけは通用しなかった。
「僚って、いつもああいう事言ってるの?」
「え」
「だから!あの…さっきみたいな」
思わず聞き返したものの、香が言いたい事はすぐにわかった。
かっと頬が熱を帯びる。
「あれは…あや!言葉のあやだよ!!!」
「…あ、そ。…そうよね」
香の表情が、「気まずい」から「がっかり」に変わったのは気のせいだろうか。
これは期待しろってことか?だよな?ええい、くそ!!!
「…あんまり、そういう事言わない方がいいわよ。勘違いされちゃうから」
何やらモゴモゴ喋る香をキッと見やる。
「勘違いしろよ」
え、と聞き返すのは今度は香の方だった。
相変わらず頬は熱いが、歯をくいしばって視線を合わせる。
「あー…、違うな」
「勘違いしていいんだけど、勘違いじゃなくて」
「だから、つまり、」
ぐちゃぐちゃになる思考と一緒に頭をかきむしる。
「っもう!わかるだろ!?」
言いたいことがまとまらなくて最終的には丸投げ。
(所詮、成り行きのテンションじゃこんなもんだよ!)
「…なんで怒ってんのよ」
香が頬を膨らませるのも無理はない。
しかし、ほのかに赤く染まっているように見えるのは街灯のせいではないはずだ。
「あたし、あんたのそういうとこ嫌いよ」
「え"!?」
「自分勝手。言葉足らず。女好き」
「…」
まったく。痛い所を突かれて、ぐうの音も出ない。
「…けど、それ以外は好き、かも」
「え!?」
比喩ではなく、真剣に時間が止まった。
耳まで赤くした香が怒ったように繰り返す。
「だから、好きだって言ってるの!!!」
「…っか、おま…」
「なによ?」
鏡なんて見るまでもなく、顔は真っ赤。首まで赤いに違いない。
手で口をおおい、へなへなと地面に崩れ落ちた。
「おまぁから言うなよ…」
あんたがさっさと言わないからでしょう、という香のお叱りは、もっともだと思う。
***
―キィ、コ。キィ。
赤い顔をした2人を乗せて、自転車が夜道を行く。
香が絡まれた街中を離れ、槇村家の最寄り駅にたどり着く頃には時間が時間だったため、送っていくと申し出たのは僚だった。
ペダルをこぎながらも、意識は腰に回った細い腕や背中に当たる柔らかい感触に向いてしまう。
「ねぇ、これってデート?」
「違げぇよ。帰宅だろ」
耳元で楽しげに囁く彼女が望むならデートとしてもいいけれど、せっかくだから初デートはもっと凝ったものにしたい。
ロマンチストなのよ、僕ちゃんは。
「香ちゃんの夢見るデートってのは、ドライブの後で夜景を見ながらディナーだろ?時代がかってる趣味だよな」
「…なんで知ってるのよ」
「さーなんででしょう」
出来ればその夢を叶えてあげたいな、なんて考えているわけですよ。
そんな男心を知ってか知らずか、香は楽しそうに笑い声を上げる。
「ご機嫌だねえお嬢さん」
「だって」
ふふふ。
「好きな人と二人乗りするっていうのも、実は憧れてたのよね」
「…左様ですか」
少し強くなった腕の感触を楽しみながら、ゆっくりゆっくりペダルをこぐ。
火照った頬に風が気持ちいい。
(ま、当分はチャリでもいいか)
最近購入した車のことは、しばらく黙っていようと決めた。
********
まろぞうさまへ
20000hit リクエスト「想いが通じ合って恋人同士になったとき」
大っっっっ変お待たせいたしました…!
2010年5月12日 微修正
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