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彼の言い分







どさ、と重い音を立てて男が倒れた。
名も知らぬその男は、もはやピクリとも動かない。

「こんないい天気の日に絡んでくる奴らの気が知れないな」


冬、快晴。
コンクリートの隙間からのぞく青い空に目を細め、僚はグッと伸びをした。
うん、今日も気持ちいい天気だ。

「リョーウ。待ちくたびれたぞ!」

鉛の塊を懐にしまいながら振り向くと、見慣れたにやけ面のミックが壁に寄りかかって立っている。
鉄砲玉に絡まれたと同時に姿を消した男が、頃合いを見計らって帰ってきたらしい。

「おまぁなあ、面倒を押しつけんなっての」
「なんだいなんだい。あんな奴ら、オレが出るまでもないだろう」

せっかく作った仏頂面も何のその、インチキジャーナリストはあくまでも笑って誤魔化すつもりらしい。
相手をするのも馬鹿馬鹿しく、仕方なくコーヒー一杯で手を打ってやることにした。



中身のない話をしながらだらだら歩き、たどり着いたのはとあるカフェ。ミックいわく知的美人が集まる穴場なんだとか。

「ど〜だ、リョウ?」
「結論から言わせてもらおう…ミック、お前は最高だ!」

薄暗く、しかし落ち着いた雰囲気の店内は、確かに容姿の整った女性が多かった。
ささやかな間接照明と、プロジェクターで壁に映し出された古い映画。明かりらしい明かりはそれくらいしかないが、抑えられた光が逆に女性たちの表情を魅力的に浮かび上がらせている。
顔を見合せた2人が、ぐふ、と堪えきれない笑いを漏らしたのも無理のない話だ。うん。

「ったく、カオリという者がありながら。好きだねぇお前も」
「おまーだって人のこと言えないだろ」

こづきあいながら店内の女性を物色していると、ふとスクリーンに目が引き寄せられた。


―この世界に確かなことがひとつある。
―歴史もそれを証明している。
―人は殺せる。


確かに、な。

栄華を誇ったあるファミリーの悲劇を描いた作品は、見覚えのあるストーリーをなぞり、壁の表面に次々と新しいシーンを映し出していく。
だが、僚の思考はストップモーションがかかったように、ワンフレーズだけが消えずに残っていた。

―人は、殺せる。

つ、と汗が流れた。
人の命の儚さを、脆さを、誰よりも知ってるはずだろう、俺は。

「リョウ?」

突然神妙な表情で立ち上がった僚を見上げ、ミックが訝しげに問い掛ける。

「悪い。やっぱ帰るわ」

言うが早いか踵を返し、静止する声すら聞き流して店を出た。




「僚、早かったのね?まだ日も暮れてないわよ」

駆けて、駆けて。
ベランダに見つけた姿に心底ホッとしたなんて本人には言えやしない。
自分を見下ろす温かい笑顔が、彼女の兄に重なって見えた。

「なに?息切らしちゃって」
「香、」

おまぁもいつか、死ぬんだよな。

「なによ?」
「いや…」

分かり切ったことをわざわざ口に出すことはない。
始まりには終わりがある。
形あるものはいつか壊れる。
人は殺せる。

そして、その瞬間を先延ばしにするために足掻くのは、勝手だ。


「ちょっと僚、なんなのよ!」
「なんでもないさ。…香、ただいま」

少しきょとんとして、だがすぐに満点の笑みでおかえりと返した女を、とことん大事にしたいと思った。

これは、愛なのか。欲なのか。



シティーハンター パートナー解消説が流れ始める、10日ほど前の話である。







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まろぞうさま19191hitリクエスト、その続編です。
気がつけば恐ろしい時間が過ぎ、しかも前作が補完できているのか甚だ疑問だという…。
とはいえ、一応対のお話ですので献上させていただきます。
まろぞうさま。よろしければお受け取りくださいませ^^;

僚ちゃんの、香ちゃんにメロメロっぷりを出したかったんだけどなぁ。。。

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あきゅろす。
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