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歩こう






風が吹いた。

むき出しの首筋に容赦なく襲いかかる冬の外気は、身体的にはもちろん精神的にもかなり堪える。
ああ、なぜ北風にあたると切なくなるのでしょうか。それでなくとも一筋縄ではいかない恋に胸を焦がしているというのに!
恨めしげに見やる先にはパートナーその人。筋肉質だからきっと平均よりはるかに新陳代謝が活発なはずだけれど、やはり寒いものは寒いのか、大きな背中を丸めて凛々しさなど欠片もない。
そんな姿すら愛しいから重症だ。

なおも吹きすさぶ風。
ああ!さむい!!!


「…なんだよ香」
「だって寒いんだもの」


臨界点を突破した瞬間、僚のジャケットのポケットに自分の手を突っ込んでいた。
限られた空間に、あたしの手と、僚の手と、使い捨てカイロ。定員オーバーもいいところ。ぎゅうぎゅうだ。


「おまぁさあ、いい加減手袋買えば」
「先立つものがないんだけど?」
「あ、そ…」

軽く睨み付けると、僚は素早く目を反らした。後ろ暗いことがある証拠だわね。
なんとなく訪れた沈黙をそのままに、2人は夜道を歩く。
歩調に合わせて、ポケットの中で素肌が擦れる。

(あんただって買わないくせにね)

冬になると僚はカイロを欠かさない。常に上着に忍ばせて、ついでに両手も一緒にしまい込む。
相棒のポケットに熱源があるのを知ってからはあたしの手もお邪魔するようになり、今にいたる。
カイロと僚とあたしの関係は、もはや冬の風物詩。
腕を組むような関係ではないけれど、この時ばかりは自然に僚に触れられるから、季節特有の切なさまで癒される。
我ながら安い。

カイロを買い続ける僚の真意は不明だが、とにかく今日も連れ立って歩いている。 冬はこれからが本番だ。










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あきゅろす。
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