[携帯モード] [URL送信]
りんごの唄



AH設定



知らせが届いた。
アジア最大の国土と人口を有し、「眠れる獅子」と称されるその国で、知らせを受け取った男は厳しい顔をくしゃくしゃにして笑った。

「どういう気まぐれだ?」

意外と愛嬌のある笑顔はそのままに部屋を出る。このことについて、ぜひ弟と話さなければ。そうだ、いっそ飛ぶか。
廊下でつかまえた部下に日本行きのチケットを命じ、ますます意気揚々と弟の下へと足を運んだ。




知らせが届いた。
日付が変わるか変わらないか、そんな微妙な時間にも関わらず、女は受信するとほぼ同時にメールを開いた。凪いだ海面が鏡のように月を写している。
ほころぶ表情をかくしもせず文面を追っていたが、知らずよってしまった眉根。

「…珍しく忘れていないと思ったら。アイツめ」

彼女が待ち望んでいた言葉は申し訳程度でしかなく、本題はまったく予想もしていない内容で。
首をすくめて、だが、苦笑しながらアドレス帳を開き変更手続きを済ませた。




知らせが届いた。
いや、届いたという表現では生ぬるい。宣言された、これが正しい。

「…二度と店に入れんぞ」

言いたいことだけ言って、しっかりとカップは空けて、そして取り残された伝票を見やり呟く。
静まりかえった店内と先ほどまでの賑やかさがあまりに対象的で、いつになくはしゃいだあの男の姿が嫌でも思い出された。

「…フン」

仕方ない。祝いだ。今日だけタダにしてやるか。
自分の中で折り合いをつけたときには、不機嫌は去っていた。




風が吹いた。
日差しが温かく降り注ぎ、緑がきらめく午後。どこかしこへ走りまわったにも関わらず、足取りは軽快だ。
ああ。世界が美しいと思う日がくるとは。人生はなんと数奇なものか!潤したばかりの喉で、力の限り叫びたい。
しかしその思いは愛しい横顔を見つけると同時に消え去った。代わりに、素知らぬ素振りで彼女の顔前を通りすぎる。

「僚ー!」

背後からかかる明るい声。だけど振り向かない。足も止めない。
今はまだ。

「僚ー」

「僚!」

「りょおー!!!」

もっと、俺を呼んでくれ。




日本の首都は東京の新宿から、知らせは届いた。
いわく。
「今日から冴羽僚になりました。」


「なあ香ちゃん」
「なによ」
「俺の名前が知りたいんだろう?」
「…あんたは、冴羽僚でしょう」
「ん、おっしゃる通り」

そう。おまぁがくれた名前だよ。




******
名前を固定した日、絶対いろんな人に連絡いれたと思う。




[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!