[携帯モード] [URL送信]
愛し








やんわりとした日差しで少しずつ目が覚める。あえて覚醒を急がず、心地よいまどろみを楽しんだ。
腕の中には女の体。
他人のベッドで一夜を明かしたのは随分久方ぶりではないだろうか。そう、アパートにうるさい番犬が住み着いて以来はなかった気がする。あの犬っころは、 家に入る者より出ていく者によく吠える。

(誰が家主だと思ってんだ、俺だぞ)

ふいに女が身動いだ。
抱きしめていた腕をゆるめてやると寝返りをうってそっぽを向く。それを後ろから包み込み直して首筋に鼻を埋めた。

(少なくとも、手の中に可愛く収まった姿を想像できないくらいの狂犬だあれは)

鼻腔をくすぐるシャンプーの香りがよく知っているものだったから、ここにいる女とここにいない女のイメージが重なる。無意識にすべすべした肌に吸い付いた。
もう1人をこそ、こんな風に、胸に閉じ込められたら。なぁんつって。

「…」

小さく小さく名を呼ぶ。そしたらもっと触れたくなった。
いつの間に身に付けたのか、キャミソールの裾から手を侵入させる。腕の中の女に悪いなぁと考えつつ、この感触をわんきゃんうるさい彼女に脳内変換。

「…朝からお盛んね」
「付き合ってくれるだろ」
「嫌に決まってるでしょーが!」
「!?」

どごん、と衝突音。
身体中に与えられたダメージで完全に目が覚めた。
見開いた目に映ったのは、自宅でこそないが見慣れた喫茶店の風景。回転速度の上がらない頭で必死に記憶をたどる。そう、確かいつもの面子で、早いうちから店を閉めて飲んで…。
流れでそのまま寝入ってしまったらしい。

(ということは、さっきまで抱きしめてたのは)

「か、かおりちゃん」
「そーよあたしよ。一体どこの女と間違えてたのよこのもっこり馬鹿!!!」

怒りで顔を真っ赤にして2発目を振りかぶる香。

「吐かないとハンマー!吐いてもハンマー!どうする!!?」

どうするもこうするも。
誰を思っていたか?言うわけがない!!!
頭上に影を落とす巨大な鈍器のプレッシャーで冷たい汗が流れる。心臓の自己主張もどんどん激しさを増す。
しかしその一方で、確かにホッとしている自分もいた。

(目が覚めなかったら抱いてたぞ!)

衝撃まであと1秒。






**********
香ちゃんを抱きしめてるつもりで他の女の人を抱き締めてるつもりが本当に香ちゃんを抱き締めてました。
出来損ないの早口言葉のような設定。


読み(愛し→かなし)


好きなんだけど上手くいかない、感じ?

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!