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大人のくすり










「…ッは、」

口を大きく開けて。思わず動きまで止まってしまう。

「くしょん!!!」

嗚呼恐るべき風邪のいたずら。
立て続けに3回もくしゃみをしてから、毛布ごと掛け布団を引っ張って被り直し、丸くなった。
くしゃみ1回で噂話、2回で悪口、3回はなんだったかしら。5回は、確か、愛されてる、だったっけ?さすがにそんなには出ないわよ。
窓の外へ恨めしげに目をやる。風邪を引いても看病してくれる相手もいやしない!!愛されてるかどうかなんて、くしゃみで占うまでもなくわかるってもんよ。
今年の花粉は凄いぞと巷でもっぱら評判だったから、くしゃみ鼻水の諸症状がまさか風邪のサインだとは思わなかった。異常な陽気に首をかしげながらの薄着もいけなかったのだろう。
見事に撃沈、お布団が恋人になって早2日。気温は再び下がって冬に逆戻り、発熱に伴う悪寒に耐える身には非常にこたえる。
鼻の奥からの気配に、嫌々ながら布団から白い手を出しベッドサイドを探った。箱ティッシュを引き寄せ思い切り鼻をかんだところでノックの音が。

「ふぁい?」

あまりの鼻声に力なく笑う。

「なに笑ってんだ?」

怪訝な表情で部屋に入ってきたのは白状なパートナーその人。労りの言葉が出てくるかと思えば、

「香」
「あによ?」
「トイレットペーパーはどこだ」

真剣な顔して、口に出すのはこんなものだ。
なにもこんな状態のあたしに聞かなくてもいいじゃない?まぁ無いと困るわよね。それで、困ったあんたはどうやって処理してきたのよ。ギリギリ足りたの?それともアウト?ちょっと!手は拭いてきたんでしょうね!?
言いたいことは山ほどあっても、この状況で口に出来るのはごくわずか。

「…あんど」
「なるほど!僕ちゃん助かっちゃう!!サンキューかおりん」

そんっなに嬉しいかトイレットペーパーがあって。
脱力し枕に頭をめり込ませる。能天気な僚の相手ができるほど、余裕はない。

「…」
「…?」

視線を感じて目だけ動かしてみれば、用事が終わったはずの僚が香を見つめていた。なによ。

「香ー。辛いのか?」

この赤い顔見て楽しそうに見える?

「…のろ痛い。あらまくらくらする」
「薬飲んだのか?」

ようやく出た見舞いにふさわしい質問にうなずく。効果は感じないがそれを伝えるのは億劫だった。

「ふぅん。あんま効いてないんじゃねえの?」

口に出さずとも感じとったらしい。まさに大正解の僚の読みだが、だからと言って病院に連れて行ってくれるような様子でもない。ただ、目を細めて香を見ている。
あんたこそ、なに笑ってんのよ?

「知ってるか?香」

ふと、大きな手のひらがおでこに触れてきた。いつも暖かな僚の手だけれど、熱に浮かされた額には冷たく感じて気持ちいい。
鼻をすすりながら、何を言いだしたのかと視線を合わす。

「熱ってなぁ、もっこりすればすぐ下がるらしいぞ」

熱のせいだけでなく、首筋まで赤く染まる。何を言いだしたんだこの男は。出ない声で精一杯叫んだ。

「ぶぁかじゃあいの!!」
「冗談冗談」

にへらと頬をゆるませたこのアホを誰か殺して。

「おまーみたいなお子様にはこれで十分だよ」

額に触れていた手がそのまま瞼に降りて視界が遮られる。同時に唇に落ちてきたのは。
触れただけで二呼吸。

「…俺にうつせば早く治るんじゃねえの」

そっと離れ、目を塞がれたまま囁かれた声に、何も反応できない。



じゃあな、とそそくさと部屋を出る背中をまばたきもせず見送って、やっと呼吸を思い出した。
ますます増す体温。くすりの効果は期待できない。










******
やれば熱が下がるのか、聞いた話なので信憑性皆無。
実践したこともないしね!


ちなみに、鼻声炸裂香ちゃんが言った言葉は
「はい?」
「なによ」
「納戸」
「喉痛い。頭くらくらする」
「馬鹿じゃないの!」
でした。冴羽商事に納戸があったかどうか覚えてませんがね(笑)

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あきゅろす。
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