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流星群のゆくえ











少しだけ哀しそうに、だがすっきりした表情で女が笑う。

「あたしには、2人の間に入ることなんて出来ないわ」


何週間ぶりかの依頼を果たし、潤う家計と財布の頼もしい厚みに頬がゆるむ。さて今日はどの店に行こうか?
街をあてどもなく歩いていると、ふいに見知った顔を見つけた。

「…あらまあ」

ダルメシアン柄のファーの付いた緑色のコートを着た色白の女が、男と手を組んで歩いている。目に入ったのは一瞬だったが、確かに昔の依頼人だ。
彼女からの依頼はどんなのだったっけな。そう考えたのに、浮かんだのは最後に見た彼女の表情とセリフ。

「あたしには、2人の間に入ることなんて出来ないわ」

この言葉を、自分は一体何度耳にしたことだろう。
依頼人が女性、それも妙齢のもっこり美人なら、僚は必ず口説いた。最初は嫌悪感もあらわだった彼女たちも、依頼が終わるころには僚に惹かれているのがデフォルト。そして皆決まってあの言葉を残すのだ。2人の間には入れない。
当然だ。入れるつもりがない。
誘うだけ誘ってその気にさせておいて、結局大事にしてるのは相棒である別の女だと見せつけられた彼女らは、どんなふうに俺を思い出すのだろう?実のところ思い出して欲しい相手すらたった1人なのだけれど。
裏社会の人間というヤクザな立場だから、仕事さえ終われば依頼人とは後腐れなくさようなら。再会することなどめったになく、その後どういう人生を歩んだか知る由もない。
今日偶然見かけた彼女は新しい幸せをつかんでいるようだった。できることなら皆があんな風に笑顔であるように、そう思うのは僚のエゴ。そっちの世界で楽しくやってくれ。俺は1人きりの女すら幸せにしてやれないんだからな。
鼻を鳴らし、ふと、ショーウィンドウに目がいく。さっきの彼女絡みで、思い出したことがもう1つ。

(素敵なピアス!黒い髪によく映えてるわ)
(付けてみる?香さんにも似合うと思うわ)
(ダメダメ!あたしくせっ毛だし茶色がかってるし)
(そうかしら…あ!確か同じデザインの色違いのものもあったわよ。)
(本当?探してみなきゃ)

なんてことない会話。依頼内容は未だに思い出せないのに、こういうことはしっかり覚えている自分を、不真面目だと怒るかなおまぁは。
仕方ないだろ、見つけちまった。

軽くなった財布と小さな包みを懐にしまい込み、やって来た道を逆戻り。
人波に消えた彼女のことはもう頭になく、いつまでも色褪せない現在進行形の彼女のもとへと足を動かした。








******
たくさんの女性が僚ちゃんの前を通りすぎたわけですが、その後の彼女らの心情はどんなもんかと。そんなテーマで書いたお話が気が付けば僚ちゃんの腹黒い独白に。
ふっしぎ!


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