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稲妻
夢の選択肢 (円吹)








ライオコット島は南の島だから雪なんか降らないというのは偏見かと思ったけれどどうやらそうでもないようで、こんなに雪が積もるのは本当に珍しいしらしい。
各スタジアムが雪に覆われてしまって試合が出来ないぶん、今日からしばらく大会を中断するというラジオを聞いたのは早朝の5時だった。

雪で興奮したのもそうだけど、目覚めてしまってはもう眠れない。冷たい服に無理矢理腕を通して部屋を飛び出して、みんなを起こさないよう静かに廊下を走る。
マフラーを出来るだけ厳重に巻いて、グローブの下に薄い防水加工の手袋をして、ジャージの上にコートを着て、そうこうしているうちに玄関に辿り着いた。俺と入れ違いで外から帰ってきた久遠監督は俺を止めない。
小さな声であいさつと会釈をして、玄関先に散らばる靴がなんだか少ないように見えたのを気にしながら、俺は宿舎の外へ飛び出した。
最後に見た時計は、午前5時と30分を少し過ぎていた。








「豪炎寺に黙って抜け出してきたのか?」
「わっ、とっあっ!」

ボールを蹴り上げる力を極力抑えた高速リフティングに挑戦中だった吹雪は俺が近付いても気付く様子がなかった。
真後ろで最初の単語をちょっと大きく声を張り上げて話しかけると見事にボールは前へと軌道を逸れて、なんとか戻そうと振り上げた足はやはりボールに届かず、ちょうど後ろにいた俺は倒れてきた吹雪をそのまま受け止めた。
もちろん、体がずり落ちないように、脇の下に腕を通してそれはもうしっかりと。

「あ、ありが、とう……っていうかおどかさないでよ、キャプテン」
「へへっ、悪い!でもここまで近付いても気付かないってのもなぁ」

疲れたのか安心したのか、とたんに力を抜いた吹雪を抱いたままずるずると俺達は座り込む。
吹雪はチーム内で一位二位を争う必要もないほどダントツで軽いから支えられないわけじゃないけど、俺に体を委ねてくれたのがなんだか嬉しくて、勢いで座っちまった。
今の吹雪は北海道で初めて出会った時みたいに、コートも着ないでジャージ姿だった。

「なあ、なんでグラウンドの片面だけ雪かきしてあるんだ?」
「え?あぁ……僕と監督でやってたんだけど、ラジオでね、今日明日は降り続けるだろうって予報されてて……大会も中止だし、今日はイヴだし、2日くらい冬休みがあってもいいだろうって監督が言ってね。ついさっき雪かきをやめたんだ」
「へぇー……あーでも俺は練習したいなー」
「ふふ、僕もだよ」

顔にかかる冷気が俺の鼻を刺激してとても痛い。
ちょっとあっためようと思って吹雪の首に顔を埋めた。けど、まぁ、さすが吹雪というかやはり吹雪というか、全然あったかくなくて、そういえばこいつ体温の低さもチーム一位だっけとか思いながらさっさと顔を上げて、自分のマフラーの中に顔を沈めた。あれ、今度は耳が痛ぇ。

「あ、ねぇキャプテン、さっきの」
「んあ?」
「豪炎寺くんに黙って抜け出したってどういう意味?」
「あー……そのまんま」
「は?」
「エイリア事件の途中から、あいつお前が目の届く範囲にいないとすっげーそわそわするじゃん。今は部屋も一緒だし……何も言わないで抜け出して、後で宿舎に帰ったら文句言われるぞ?」

あーー………、なんて空返事、どうやら吹雪も気にはしていたみたいだ。
目がうようよしてる。

「みんなが起き出す頃には帰る気だったし、大丈夫かなぁってね……今何時?」
「たぶんまだ6時前」
「もうちょっとかー……豪炎寺くん早起きだもんなぁ」
「豪炎寺と鬼道ってなんかおじいちゃんみたいだよな。朝すっげー早起きだし」
「うんうん、わかる。鬼道くんなんか響木監督より早く起きてるよね」

あの髪型は生え際をいじめてるとしか思えないとかなんとか、吹雪が鬼道の頭を心配し始めた瞬間に背中に突き刺さる視線を感じて宿舎を振り向いた。
案の定、いつも早起きな鬼道はやっぱり起きてて、寝起きのまま俺達を見ていた。
確かに生え際やばそうだなぁ。
(……ん?なんだあれ、ジェスチャーか?)
右手で横を指差して、次に左手をぱたぱた動かす。
左手のぱたぱたは決して適当なぱたぱたじゃなくて、手の角度はきっちり水平と垂直だ。
えーと、鬼道達の横の部屋が確か吹雪と豪炎寺の部屋だから………豪炎寺が起きるぞって意味か?あー、あいつが起きたらめんどくさいなぁ。

「あと豪炎寺くんもあの髪いつもセットしたまんま寝てるんだけど、朝になっても乱れてないってのが怖いよね」
「なぁ吹雪」
「まったくどんだけワックス使って……あ、なに?」
「俺さ、プレゼント選びって苦手なんだよなぁ」
「?、うん」
「だから明日のクリスマスはライオコット島のお菓子袋買ってみんなに配るつもりなんだよ」
「あ、僕チョコはチョコでもホワイトしか食べないからね」
「じゃあ吹雪のプレゼントは、これで勘弁してくれよ」
「え」

やっと俺の方を向いた顔をそのままに軽く固定して、小さく開いた口へキスをする。
このやわらかさをいつも楽しんでいるのが豪炎寺だと思うと軽く殺意が湧くけども、こうして吹雪と小さな秘密を作れたってことで満足しておこう。
それはそうと、キスする時は音を立てるとそれらしいってヒロトが言ってたけど、音ってどうやったら出るんだろう?わかんねぇ、でもやりたい、いやそれよりも!

「ッ……つっめてえええええ!!」
「つ、冷たくて悪かったね!」

うわああああああなにこれ冷たっ!

「ちょ、吹雪おまえっ、冷たすぎるって!……ってよく見たら唇紫色になってるぞ!」
「体温低いのは仕方な……え、うそ!?」
ぱっと両手で口を覆うが嘘じゃない。
さすがにジャージだけじゃ寒すぎたんだ、北海道で会った時も凍えてたし。

「ほら、宿舎に帰ろうぜ。あったかいお茶とかでも」
「あ、ま、まって」
「へ?」
「いや、その、別にこれぐらいで死ぬわけないし、ちょっと寒いけどほんとに平気だし、もうちょっと外にいたいっていうか、あの…………せっかくのプレゼントだし、まだ他に何も口にしたくない、です」

片手で口を覆ったままもごもごと喋る吹雪の頬はうっすら赤く見えて、立ち上がりかけた俺のコートを掴む手も弱々しい。
ここまでくると、なんか、俺の方が恥ずかしい。

「………じゃあ、サッカー、するか」
「………うん」

マフラーとコートを脱いでベンチに放り投げる。
そのまま軽く準備運動をしている最中、そういえば隣のベンチの上の雪が妙に盛り上がっているのに気付いた。
吹雪が向こうを向いてストレッチしているのを確認してその山に手を突っ込むと何かがあって、それを掴んでゆっくり引くと、俺のものと同じ、イナズマジャパン支給のコートの端が出てきた。きっと吹雪のだ。
(こんなに積もるまで……ひょっとして吹雪、寝てないのか……?)

なんだか見てはいけなかった気がして、横の雪をかき集めてコートを埋める。
クリスマスといえば吹雪にとっては曰わく付きなのだ、俺が刺激していいことじゃない。

「キャプテン、早く!」
「………おう!」


今年のクリスマス、みんなでいっぱいいっぱい、吹雪に構ってやろう。







(早朝の夢は小さな愛でした)














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あきゅろす。
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