[通常モード] [URL送信]

稲妻
吹雪ログ15 (豪吹・ヒロ+吹)




†豪吹







(あー、タイミング悪いなぁ……)

ザァザァと激しく地面を打つ雨の幕はまるでバケツをひっくり返したようなもので、あまりに激しいもんだからサッカーコートの向こう側のゴールはかき消されてしまってここからではもう見えない。
なんだか今日僕は空に拒絶されているようで、全身ずぶ濡れを覚悟で橋の下から飛び出す気すらもかき消された。
今朝の天気予報は晴天、数十分前までは暑いくらいの快晴が急に曇りだして、河川敷で自主練習をしていた僕を突然の雨で橋の下へ閉じ込めたのは今から数分前だ。
タイミングが悪いわけじゃないのなら、僕が一体何をしたっていうんだ。

「……………ひとりは、嫌だなぁ」

そういえば数ヶ月前もここでこんなことを叫んだ気がする。
あの時も確か雨で、こんなにひどくはなかったけれど気持ちの方を表したならまさにこんな感じで、あの時僕を置き去りにしていった彼になぜだかひどく会いたくなった。
合宿所に帰れば会える彼に、今すぐだ。

「……よし、帰ろう」

風も強いしいつ止むかわからないし、合宿所に帰ったらすぐお風呂に入れば風邪の心配は、まぁ……なんとかなる。
ボールの側に放置しっぱなしのジャージを着込んだ。

(そういえば、ひとりが寂しくなると独り言がよく出るって本当なんだね……ひとりでここにいるとあの時を思い出すって豪炎寺くんに文句でも、「吹雪っ!!」

べちゃっ

「うぉあああっ!?」
「どっどうした吹雪!?」
「ごっごごごえごーえんじっ……!?」

突然背中から襲いかかってきた水の塊にがっちりホールドされ、思わず口から出てきたのは情けない悲鳴。
とっさに助けてと叫びかけた名前の主の声が聞こえたような気がして恐る恐る振り向けば、水の塊だと思っていたそれは、今僕が会いたくて会いたくて仕方ないその人本人だった。
あぁもう、自分の悲鳴が二重の意味で情けなくなってきた!

「………その、大丈夫だったか?」
「き、君こそ……びしょ濡れじゃないか…」

初めて見る、髪を下ろした豪炎寺くん。
至近距離で見るその顔はやっぱりかっこよくって、あぁこれか、なんて微笑む表情すら見ていられない。

「お前がここでひとりは嫌だって言うから、取り残されているなら迎えに行こうと思ったらもう飛び出していたんだ」

俺がそうしたかった。
だから気にするな。

(いや、気にする、すっごい、するよ)

あの時の僕のことばは、ちゃんと届いていた。








―――――――――――――――




†ヒロトと吹雪






「ほっ」

ワックスで軽く跳ねさせた一束の髪を、きれいな癖毛に見せるために指で摘んで形を整える。
鏡から視線をそらさないで数回左右に頭を振ってみて、形が崩れないし位置もおかしくないのを確認して、よし俺イケメン。
今日も良い朝だ。

「あ、ヒロトくん」
「ん?あぁ吹雪くん、おはよう」
「おはよー」

そろそろ洗面台から退散しようかと荷物をまとめ始めると、吹雪くんが隣へやってきた。
相変わらず笑顔が可愛い。

「ん、あれ?ヒロトくん、それ何?」
「あーこれかい?ワックスだよ」
「ワックス?」
「うん、これこれ」

ぴょんと跳ねる左右の髪を指で軽くぴんっと弾く。
弾力よく揺れる軽快な動きはさすが俺の髪だと思うよ。
あぁほら、吹雪くんやっぱり驚いてるや。

「それ癖毛じゃなかったの?」
「うん。自慢なんだけど、俺もともとはさらさらストレート髪なんだ」
「ほんとに自慢だねムカつくよ」

濡らしたタオルを軽く絞って、ぱんっと広げたかと思うと吹雪くんはそれを自身の頭に巻いた。

「何してるんだい?」
「寝癖直し。でもすぐに戻っちゃうんだ」

頭を縛り付けるように、タオルの端と端を掴んでぎゅうううっと額の前で引き締める。
しかしそれもたった数秒のことで、次にタオルを外した時そこにいたのは、かつで白いマフラーを大切そうに首に巻いていたあの頃のような……おとなしい髪の吹雪くんだった。

「わぁ、懐かしいね。ちゃんと直ってるじゃないか」
「そんなことないよ。見てて」

ぶるぶるぶるっ

まるで犬が毛についた水滴を払うように激しく頭を左右に振ると、落ち着いたはずの後ろ髪はすかさずぴょんっと跳ねた。
いつもの吹雪くんだ。

「ほらねー」
「じゃあ頭を振らなきゃいいのに」
「だって、練習で動いた後すっごく大変なことになるんだ」
「へぇー……」

じゃあそんなワイルドに水をきらずに、ゆっくり丁寧に拭けばいいのに。
ていうか君こそ寝癖だったんだ、それ。

「ヒロトくんはなんでワックスでそこだけ跳ねを作るの?」
「んー、別にこれにこだわってるわけじゃないんだけどね」
「じゃあ?」
「もったいないから、ワックスが」

グランの俺になるために、ずーっと付き合ってきてくれたこいつがもったいないから。

「君はなんで寝癖を直したがるんだい?」
「僕そんなワイルドキャラじゃないし」

いや、かなりワイルドだよ、君。









―――――――
朝のやり取り



[前へ][次へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!