隠れた正体*
「ハァー…」
俺は身なりを整えると、盛大にため息をついた。
目の前には小綺麗な男の死体。
俺がそうしたことだが、あられもないその死に様に少々眉をひそめる。
下半身からはまだ精液と血がゆっくりと、苦無の刺さった左胸からは止めどなく血が流れ出ていた。
項垂れている顔にも頭を後ろの壁で打ったのか、血が流れた跡がある。
だが表情はとても穏やかで、まるで眠っているかのようだ。
不穏分子は死んだ。
正体を隠したまま。
…しかし腑に落ちない。
自分がとても腹立たしかった。
さっきのため息はそれのためだ。
「…俺様としたことが…」
この男の色に惑わされて一瞬ならまだしも、"男"になってしまっていた。
死んでしまっても尚、ただならぬ色香が漂わせる男の様子。
最近任務や戦ばかりで溜まっていたというのもあるが、予想以上にこの男の締め付けがよかったことにもある。
変態のような発言だが実際そうだったんだから仕方がない。
…苦しい言い訳だが、それで自分を納得させるしかなかった。
自分は忍失格だ、なんて、
自分から思う奴はいないだろ?
そしたら今男にしたように今度は自分に苦無を突き立てなければならない。
存在意義がなくなるから。
しかしこれが自分の失態ということに違いは無かった。
全く情報が取れなかったのだ。
真田の旦那に報告もしてしまったし…
なんて言えばいいか。
…旦那のことだから今度から気をつけろって、どうせまた甘いことを言うんだろうけど。
男の胸から苦無を抜き、下敷きにする着物を無理やり引っ張り出し、体に掛けてやる。
意味はないが、その方が落ち着くと思った。
…って、俺に心はないはずなんだけどね。
処理は、後ででいいか…
取りあえずは残った任務を片付けなければならない。
立ち上がり、装束についた埃を払って天井の穴に跳ぶ。
────いや、跳ぼうとした。
俺の第六感が警告をする。
確信に近い予感と、寒気が身を包み俺の身体は硬直して動けなくなっていた。
何だ?何だこの感覚は。
ドクン──────
自分の心拍数が増えていく。
そんなまさか。
ありえない。
ドクン──────
背中に冷や汗が流れる。
さっきまで気配のなかった、いや消えていた気配が、1人分現れているのだ。
ゆっくりと俺は後ろを振り返り、予感が外れていることを祈って、その姿を確認した。
ドクン──────
「…嘘だろ…。」
俺の目には、本当に眠るように寝息を立てる、小綺麗な男が映っていた。
(黄泉返り、永遠の 命)
[END]
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