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哀を射す視線




"本人に聞いてみればいいじゃない。"


「すみません。道に迷ってしまって。」

「、か、まわぬ。」

にこりと微笑まれる笑顔。
とても綺麗な笑顔だ。
俺は名字殿を見ながら、朝餉の最後の段階へと移る。

笑顔に少々の戸惑いを感じながら。

「じゃあ俺様は行くね〜。」

「えっ、行ってしまうんですか?」

背後の佐助を振り返る名字殿。

「え?何?行ってほしくないの〜?うひょー名前ちゃん俺様がいないとさみsピシャン

「…………。」

「…………。」

「………─。」

名字殿が肩を落とす。
ずいぶんと気が重そうだ。

「名字殿、朝餉が冷めてしまいますぞ。」

といってもすでに冷めているが。

「食欲がござらぬとも汁物だけでも腹に入れたほうがよいでござる!」

白米をもごもごとしながらそう言葉をかけた。

「…はい。」

名字殿はゆっくりとくちらを向き、自分の席へとつく。
朝餉を見ると、どこかげっそりとしたような…
…言ってはわるいが、目が死んでいる。

「名字殿?」

「あ、いえ。お気になさらず。」

やっと味噌汁の椀に手をかけ、食し始めた。

・・・。

その仕草はとても美しいのだが、どこか…

「…名字殿、佐助がおらぬのがそのようにさせるのならば呼んで「結構です真田さん。」

半ば味噌汁を吹く名字殿。

ではなぜそのように──

「つまらなそうでござる。」

「!…いえ、そんなことは。」

「と言っているが表情が動かないでござる。」

「そうでしたか?それはきっと気のせいです。」

「棒読みでござる。」

「それも気のせいです。」

「…目が死んでるでござる。」

「…………。」

「それともそれがホントの名字殿でござるか?」

「っ…………。」

カタン───…

椀を置き、名字殿が一息つく。

「?」

「こんなこというのもなんですが…」

「うむ。」

「…あの、そういう風にじっとみられると、
やりにくいんです。」


・・・・・。


「……………っ!!!!!/////
すすすすすみませぬ!」

思い返せば名字殿が帰ってきてから彼しか見ていない。
気がついたとたんに顔に熱が集まるのを感じた。

「いえ、別にそんな照れるようなことはないと思いましゅ…」

彼が微笑んだ瞬間俺は手を伸ばして頬を引っ張る。

「…………。」

「…………。」

「…………。」

綺麗な笑顔だ。
(なのになぜこんなに佐助の笑顔と重なるのだろう)

「…ふゃなああん(真田さん)」

(名字殿は、俺に見られるのが嫌で、こうなることが嫌だったのか。)

「すみませぬ…。」

名字殿の頬から手を離すと、名字殿の頬から手を引く。

「いえ。大丈夫です。」

微苦笑をもらされたが、手が出るのを必死に押さえた。

「名字、殿はその…」

「?」

「忍ではござらぬのか?」

「…なんでいきなりそんな…」

「いや!ななななんでもないのでござる!
ただ、聞いてみたかっただけでござるっ」

ただ、確認を。

────少々の間。

「違いますよ。
僕は一般人…庶民です。
なんの力も持ってません。
もちろんお兄さんのような…猿飛さんのように技術に優れた忍ではありませんし、刀なんて持ったこともないですよ。」

「そう…でござるか…。」

「…まず未来では刀を持っていると罰せられますから。」

「!なんとっ!
それではどのように世の中を統べるのでござるか!?」

「えっと、1人が政府…幕府…ないよなこの時代…うーんと、
まぁ天下統一みたいな感じです。←適当」

「なっ、天下統一…?
謀反や一揆などが起こったらどうなるのでござるか?」

「国民が決めた1人が国の代表になって、その下に部下がついて、それぞれの部門についてまとめてるので…
未来の日本は平和主義なんですよ。
そういうことを起こした人もなんらかの形で罰せられてしまいます。」

「なんと…」

って、そういうことを聞きたいのではないのだ俺は!
いや聞きたい話ではあるが…
(武力のない統一は理想だ。)

乗り出した身を元に戻し、こほんと咳払いを一つ。

「…………どうかしたんですか?」

「ぬ?」

「なんだが(最初から変ですが)様子がおかしいです。
うずうずしているような…」

「!そそそんなことはっ!」


"本人に聞いてみればいいじゃない。"



「……………っ、なんでもないでござる故…」

「……そうですか?」

箸を唇に当て、首を傾げる名字殿。

どうしようか、
聞いてしまおうか、

いやしかし…

俺は逃げるように立ち上がり、

「?」

「某は執務があります故。
これにて失礼いたす。」

そう言って、名字殿の返事を背中で受けながら静かに退室した。


"本人に聞いてみればいいじゃない。"

頭を巡るこの言葉。
だが、できれば彼から話してほしいのだ…。
(佐助、お前にもそうして欲しかったように──)




(真田君の俺を見る時の目)

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