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訳はわかって





部屋に2人を残して────


「ねえ、才蔵。」

「……………。」

俺様が目の前に現れると、あからさまに嫌そうな顔をして睨み付けてくる才蔵。

なに、その顔。
生意気。

「説明、してよ。
忍長屋で暇そうに歩いてたんだから別に忙しいわけじゃないんでしょ?
説明する時間ならたっぷりから。」

ね?話してよ。
さっきのことを。

そういうと一層才蔵の剣幕は嫌なものへとなっていく。

才蔵が暇そうにしていた。
それは俺様が名前ちゃん…名字名前の監視の任務から今日1日外すことにしたからだけれども。
おそらく無期限のこの任務に携わっていたため、他の任務など皆無なのだ。
才蔵の視線にはそれに対しての非難が混ざっていた。

しばらくお互いに睨み合い、

そのまたしばらくして、才蔵がため息を吐いた。

「…水没死もダメだったぜ。」

「…………なんの話?」

いきなり言われたその言葉。
意味がわからなかった。

水没死?も?
ダメだったって…

その時、目の裏に残像のように名前ちゃんの姿が写った。

着物…変わって…。

その真意、は、

「まさか、」

「名字名前。
水没死もダメだった。」











シュッ
パシィッ












「……………。」

「そう熱くなんなって。」

才蔵に手をあげるなんて、いつぶりだろう。

「熱くなんて、なってないけど?」

(なにしてんだ俺…。)

「……………。」

俺様の笑顔は嘘だってわかりやすいのかな。
才蔵がまた不快な顔をしている。
(なんでこんなに苛立ってんの?)

拳を体の横に戻し、先ほどと同じように才蔵と対峙する。
才蔵は呆れたような目をしてこちらを少々見据えると、俺の拳を防いだ手をおろした。

「…猿飛、お前はなんでそこまで名字名前にこだわる?」



「こだわってなんかないよ。
別に。」

「ならなんで主にこの事を伝えない?」

…主、

「真田の旦那に?
…さあね〜知らない。」

「知らなくないだろ、猿飛。」

「……………。」

自分の中の闇がゆっくりととぐろを巻いた。

「主に関係のないことならばまだしも、
これは真田家、いや武田軍に大きな影響を与える問題だ。」

「あの子が戦えると思う?」

「……………だが、不死身だ。」

「あはーそれだけでやっていけるほど乱世は甘くないでしょ。
才蔵もわかってんじゃないの?」

「あのままならな。
お前もわかってるんじゃないか?
訓練次第で、あいつを無から莫大な兵力にすることが出来ると。」

「………………。」

そう。
人は訓練すれば強くなれる。
才蔵のいう通りわかってる。

自然と手に汗を握った。

なにも、言い返せない。
口が動かなかった。

「…猿飛、よく考えるんだな。」

才蔵はそういうとすっと俺のすぐ横を通り、静かに気配を遠ざけていく。

よく考える、ね。

なにを?
考えろというんだ。
(一応部下であるあいつにこうも諭されるような口をきかれるなんて腑に落ちない…。)

「あは…。」

渇いた笑いが口から漏れる。

俺様は忍。
好奇心は許されない。
特別は主、その他は塵。

押し潰されそうなこのやりきれない思いはなんなんだ。




(その訳はわかって、る)

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あきゅろす。
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