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忍ノ殺人経歴




「あ!」

「っ?…」

会話の合間の静寂の中、突然上がる声。
足下を見ていた俺は顔をあげる。

やはり時間がかかりすぎたか。

そこに立って居たのはお兄さんだった。
丁度曲がり角で、やっと見つけたと、これ見よがしにため息を吐く。

「厠に居なくて探したんだよ?
才蔵はともかく、名前ちゃんがわかりやすい気配を垂れ流してて、居場所に検討ついたからよかったけど。」

いちいち気に障る言い方をする人だな…。

前を歩いていた才蔵さんが立ち止まり、俺もつられて立ち止まる。
お兄さんの足は止まらず、目の前まで歩み寄ってきた。
そして俺をじっと見ると、


「あれ?着物変わった?」

と怪訝そうな目で俺を見てくる。

「見てわかりませんか?」

俺がそういうとお兄さんは眉間に皺を作り、才蔵さんに視線を移す。
すると今度はそちらに驚いたのか

「あれ。才蔵何で布取ってるの?」

と心底驚愕した目で見ていた。
俺も才蔵さんを見るが、お兄さんの言葉に反応するそぶりをみせない。
お兄さんはそれに何を思ったのか、

「…まさか…」

そう小さな声で呟く。
僅かに殺気立つお兄さんは才蔵さんを睨み付ける。

「…………。」

才蔵さんもまた何を思ったのか挑戦的な目でお兄さんを見返す。
…さっきの黒く淀んだ目が嘘のようだ。

「…なーんてな。
テメェが思ってるようなことは何もしてない。」

ニッと口端を上げてはにかむ才蔵さん。

俺はそれに軽く目を見開いた。

ほんとに、表情も、目も違う。
別人のようだ。

…俺の前で演技をしていたのか。
(とても演技に見える無表情には見えなかったが…)

「俺様何も言ってないよ〜早とちりしないでくれる?
…名前ちゃん?」

「、はい?」

そんな俺に気づいたんだろう。
お兄さんが声をかけてきた。
顔を覗き込まれ、その近さに体を軽く引く。

それに気づいているのかいないのか、お兄さんは笑って

「真田の旦那が待ってるから早く行くよ。」

と言って俺の手を取った。
あまりの素早さに拒むこともできなかった。

「才蔵、あとでたっぷり話を聞かせてもらうからね。」

才蔵さんを横目にお兄さんがそう言いながら俺を連れて歩き出すと、「はいはい」と返事をして背後で彼が消える気配がする。

予想通り振り返ると才蔵さんは後片もなく消えていた。
(残っているのは彼の豹変に対してのとてつもない違和感)


辺りは再び静寂した。
ギイギイと俺とお兄さんが歩くたんびに鳴る床の軋む音だけが聞こえる。

「……………。」

「……………。」

「…………お兄さん、」

「何?」

「手、話してください。」

「ごめん流石に俺様でも手と話すことはできないなぁ笑」

「誤字を放置しないでください作者。
…………手を離してくれませんか。」

「…はいはい。」

いいじゃん減るもんじゃないんだし、

そんな言葉を残してお兄さんは引いていた俺の手をパッと離す。

「……………。」

「……………。」

その手に残るお兄さんの熱の余韻をもう片手で擦った。

あぁ、




(この手が俺を殺したんだ)

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あきゅろす。
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