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その男、虚ろ




哀れな青年だ。

青白くなったその顔を見つめて俺はそれを呟くこともない。

ポタポタと髪から垂れる水を眺めて、彼が生き返るのを待つのみだ。

確信に近い予感、か。

彼を殺した手応えはあったが、なんとその手に残ったのは虚ろの死。
確実に殺したと言い切れる自信がない。

確かに彼は死んでいる。
でも生き返る
説明はできない。
でもそんな気がする。

その時、ふっと背筋を何かが滑った。

「……………。」

彼の顔に恐る恐る手を差し出す。

当たるのは、小さな風。

「……………。」

ほらな、生き返った。

飲み込んだ水はどこに行ったとか、それを考えるのは野暮なだけであろう。
ほう、と一つ息を吐いて手拭いを出して頭を拭いてやる。
あとで着物も着替えさせてやらなければ。

「……………。」

猿飛佐助は何故自分の主にこのことを伝えないのだろう。
不思議で仕方ない。
いつまでこんな有益な能力の持ち主を、ただの居候としておくつもりなのか。
宝の持ち腐れというやつだ。

という俺も、主にまだこのことを伝える勇気は持っていないが。

ふと青年の髪の水分を拭う手を止めた。

「……………、」

勇気?

今、自分は勇気と言ったか?

……………馬鹿馬鹿しい。
何を考えているんだ俺は。

まさか自分が、
この男に情けをかけているとでも?

「……………。」

そんなわけ、ないか。

少々乱暴に彼の頭を拭き終わると、力の抜けた体を背負った。

「!」

驚くほど軽い。
昨晩毒死した彼を背負ったときよりも増して軽い。

飯を二回もぬいているからか。

細い足に手を絡ませて、体を固定する。
こんな華奢ならば、戦に出てもすぐに殺されてしまう。
(どうせ生き返るが)

…本当にもったいない。
死をも恐れぬと言われる俺だが、死は怖いというのに。
彼のように不死身になれたらどれだけ楽か。
(人間から外れることを望んでいるわけではないが、)


伝説の忍と名高い俺でも
怖いものがあるのだな。


血も涙もない自分の人間らしい部分を省みて、
なんだか笑えた。




(2人が待っている、急がなければ)

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あきゅろす。
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