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残忍であって




才蔵が名前ちゃんを連れて出ていった。
……………厠に。

目に残るのは、襖に消えた"どーぞごゆっくり"っていう雰囲気の優しくて、
それと似つかわしくない冷たい目。

名前ちゃんの魂胆は見え見えだ。

俺と真田の旦那の間にある綻(ホコロ)びを解決させて、
真田の旦那からの仮面剥がしとり攻撃から逃れる。

それが彼の狙い。
…わざわざ恥を忍んで厠に行かずともよかったのに。

余計なお世話ってやつだ。

「…そうしている理由は解っているつもりだったのだがな…。」

旦那の声でフッと我に返った。

そうしている、とは言わずとも"笑顔"のことだろう。

「解ってなかったんだ?」

そう言うと主の肩が頼りなく下がるのを見て、俺様は薄く笑いながらため息を吐く。

正確には解らなくなった、か。
名前ちゃんに出会って。
名前ちゃんのあの笑顔を見て。

あの子と俺様の笑顔は、見た目は自然だけれど、その笑顔は虚だ。
それを見破れた旦那は、少し忍に向いてるかもなと、思ってもないことを思ってみる。
(旦那に日陰仕事なんて似合わないけどね)

「………お前は人だ。」

静かな声色。
しかしそこには旦那の強い意思が認められる。

「っあのねぇ、旦那。」

俺は咄嗟に旦那を引き留めるように制止の声を掛けた。

「俺様は人じゃない。
忍なの。
人みたいに、情とか感情とか、全くない忍。」

何回目だろうか。
これを言うのは。

棒読みで言った言葉は、旦那を逆撫でしただけのようで、
バッと振り返る旦那の勢いに俺様は押された。

「では聞くが、…あの者は何故忍ではないのに自分を隠す?
忍でないならば人だ。
あの者は人でないのか?」

「…それは…」

事実上から言えば人でなしなのだが…

「…俺様にもわからないって。」

「っ…───…」

「本人に聞いてみればいいじゃない。」

本人にとっちゃ酷かもしれないけどね。

「…そうか…、わかった。」

暗い顔をして、旦那はうつ向く。

聞くのか?
…物好きだなぁ。

純粋で、猪突猛進の旦那だからこそできることか。
きっと聞いても聞かなくても旦那はあの子の仮面を剥がしにかかるんだろう。

ただの居候なのに。
気にかける必要なんてないのに。

俺様に似てるから?
否、違う。
ただ共通点があるだけだ。
お互い笑顔の仮面を持っているだけ。

…その本質は違う。

馬っ鹿じゃないの。
ホント。

あの子の本性を暴いたって、仕方ないじゃない。
あの子の本質が別にあることに気付けただけで十分じゃない。

そんなに足を突っ込むほどの話じゃない。




…なんでだろう、すごく不快だ。




(これは誰に言ってる言葉だ?
旦那に言ってるのか?
それとも、)




…俺様も腐っても人間ってことか。
好奇心なんて餓鬼じゃあるまいし。

すぐに払ってしまおう。













「…佐助、」

「ん?何?」

悶々とした世界から我に返る。
ふっと沈黙が流れて、

「何か某に隠していないか?」



俺の目を見据えてくる真っ直ぐな目。

うっ、と俺様は言葉に詰まる。

「…………別に、ないけど。」

どもりそうになるのを必死で押さえて、静かに返事をした。

「……………そうか?」

旦那は首を傾げて正面を向いた。

そして黙々と食事を再開する。

「……………。」

別に、教えない理由なんてない、…けど…

なんとも説明し難い自分の行動に嫌気がさして、
ゆっくりと眉間に皺を寄せた。




(払うのは簡単、消すのは難関、)

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あきゅろす。
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