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舞い降りる竜




簡単────…

そう、簡単なはずだった。

川中島の合戦に乱入しようと目論んでいるらしい伊達軍の様子を見に行けば、呆れた事に宴会をしていた。

わざわざ見に来てやったのに、

と働きっぱなしの俺様は疎ましくそれを見たのを覚えている。

だが俺様の目的は独眼竜暗殺。
こんなに都合のいい事はない。

寝首を掻くのは簡単そうだ、とほくそ笑んだ。


「かすが、あんたに出会わなきゃよかったって今心底思うぜ。」

「私だってお前と同じだ…!!」


忍の里の同期に出会って事態は急変。
同期のかすがは上杉の命じゃないってのに独眼竜を暗殺に来たらしい。

健気なこって…。

俺様は2人で独眼竜を暗殺しようと提案したが頑なに拒否されてしまう。
武田軍の俺様に協力するのはありえないそうだ。

それから、話に夢中になりすぎて、

「HEY…あんたら、面白い話をしてたな?
俺を?暗殺…
そう聞こえたぜ?」

不敵に笑う独眼竜──伊達政宗。

その気配に気づけなかった。
ふと耳を澄ますと、さっきまでどんちゃん騒ぎをしていた伊達軍の陣地もすっかり静まり返り、
周りを囲まれてしまったようだ。

正直言って事態は最悪。
…ホントに最悪だ。

独眼竜はまともにヤり合って勝てる相手ではない。
それに周りを囲む兵の数…多勢に無勢だ。

俺様は独眼竜を睨み付けながら打開策を講じる。

どうする…
どうすればいい…?











その時、隣でかすがが動いた。

「独眼竜…覚悟!

「!!待て、早まるな!

武器を構えて駆け出すかすがに手を伸ばし制止させようとするが、
かすがの頭には独眼竜暗殺という考えしかないようだった。

逃げることを知らないバカが…!!

独眼竜を見ると、余裕の表情でへらへらと笑って、自分に向かってくるかすがを見ている。

「血の気の多い女だ…
もっとCOOLになれよ。」

独眼竜がゆったりとした動きで刀を抜いた。

かすがの第一攻撃は見事に弾かれ、独眼竜はそれじゃ足りないとばかりに挑発する。

「おい、どうした?
俺の首を取りたいんだろ?
死ぬ気で来いよ。」

「…!!お前なんかにっ…
お前なんかにあのお方の邪魔はさせない!」

「おいよせって!
ここは逃げるのが得策だ!」

うるさい!!
あのお方の敵は全て斬る!
それがっ…剣としての私の役目!」

私情に駆られた忍は忍でなくなる。
忍ぶ忍の攻撃でなく、悪戯に命を無駄にする直線的な愚かな雑兵の攻撃になるのだ。

かすがは憎悪の目で独眼竜を見据えた。

そして予想通り、かすがは一直線に独眼竜に攻撃を再び開始する。

「かすが…!」

「やれやれ…お行儀の悪いお客さんには…」

背中がゾクリとざわめく。

独眼竜は六本の刀を全て抜いていた。
嫌な予感がして、慌てて俺様はかすがの後を追いかける。

「お仕置きしてやらねえとな…?」

ブワッ─────

辺りを包み込む独眼竜の覇気。
強い、…!!

改めてこんなのとの決闘を楽しみにする旦那が化け物だと実感。


独眼竜の攻撃が始まった。


「……!!」

その場で圧倒されたのか、かすがが硬直している。

そのままだと独眼竜の攻撃をまともに食らってしまうう…!

「危ねえ………!!」

咄嗟にかすがを突飛ばし、代わりにその場に俺様が佇んだ。

視界の端でかすがが驚愕の表情で俺様を見上げるのがわかる。
すぐそばに独眼竜が迫っているのも。

もう逃げられる距離ではない。

「(女を庇って死ぬのも、悪くねえな。)」

フッと笑って、甘んじて独眼竜の攻撃を受けることにする。

蒼が視界を満たす。














パシッ

「!!?」

グイッ

「ぬぉっ!!?」

予期せぬ救いの手。
横から引っ張られて間一髪、独眼竜の攻撃から免れた。
続けざまに後ろへと放り投げられる。

「って………!!」

地面に叩きつけられた俺は、その救世主の姿を振り返って唖然とした。

「……………。」

青年だ。
まだ旦那と年端の変わらない青年。

それだけならまだしも、
背中から小さいながら翼が生えているのだ。
烏のように羽根が生えていない、蝙蝠(コウモリ)を思わせる黒い固そうな鱗の翼。

偽物…、か?

時折動くそれは作り物とは言いがたいものであった。

かすがも突然のことに身動きが取れないようだ。

「AH…?なんだテメェ。」

独眼竜は攻撃を避けられたのが気にくわないのか、その原因であるそいつに矛先を向ける。
青年はそれにビクともしない。

むしろ、楽しんでいるように見える。
後ろから少し見える口元が、微かにだがつり上がっている…ように見えた。

「逃げろ。」

「…っえ、」

ぼそりと告げられたその言葉。

「逃げろっていってんの。」

青年は勇気があるのか、相当の馬鹿なのか…
独眼竜に背を向け、俺とかすがに向き合った。

青い目を持つ綺麗な青年。
一瞬、その端正な顔立ちと瞳に呆然と見惚れる。

「これ仕事だから。
早く行ってくんないかな。
あんたらに死なれると困る。」

そう言われて唐突に現実に引き戻された。

「っはぁ…?何言ってんのあんた…」

仕事…?

独眼竜暗殺か?
いや、"あんたらに死なれると困る"って奴は言っているし、独眼竜は関係ない…か。

俺様は数秒間そいつと見つめあうと、糸が切れたようにニヤリと笑う。

九死に一笑。
ありがたくそのご厚意に乗せてもらうとしよう。

「かすが!行くぞ!」

立ち上がると、俺様は一目散に逃げ出した。

伊達軍の兵士の間を縫って夜の森へと身を投じる。













「あいつは一体何者だ…!?」

後を追いかけてきたのか、かすがが俺様と合流した。既に独眼竜の陣地からかなり離れている。

太い木の幹に腰を下ろしていた俺は、鬼のような形相をするかすがを見上げた。

「知らねーよんなこと。
俺様が聞きたいくらいだ。」

「あいつの気配を全く感じ取れなかった…
どこから出てきたのだあやつは…!」

まださっきの緊張が抜けていないのだろうか。
いやにかすがは興奮して辺りに怒鳴り散らす。

「だから知らねーって!
そんなもん後の祭りだろ。」

そうだ。
もうあいつと出会うことはない。

「っ」

かすがもふっと表情を曇らせた。

「…死んだな…あいつ…。」

独眼竜の相手ができるようには見えなかった。
華奢すぎる。

勝てるとしたら、あの美貌くらいか…。

…もったいないことをした。
別の場所で合っていれば…────

「…………おい、鼻の下が伸びてるぞ。」

「!…」

からあの青年の姿を振り払い、俺様は立ち上がる。
静かに名前もわからない青年の冥福を祈りながら。

「さーてと。
俺様は真田の旦那に合流するとしますか。」

独眼竜から逃げて帰ったと知られたら渇を入れられそうだ。

「…………ふん。
せいぜいがんばるんだな。
謙信様は武田信玄などには負けぬ。」

「はいはい、わかりましよ。」

「くっ……もう二度と私に関わるな……。」

かすがが音もなく去っていく。

やれやれ、俺様が最初に助けてやったっていうのに…お礼も無しか。

「ま、あの時の償い…って思えば、ね。」

俺様は木の幹を蹴って、旦那の元へと急いだ。




(その姿、天使か悪魔か)

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あきゅろす。
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