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そっとしてよ




元々不機嫌だった俺が、お兄さんの登場によってさらに不機嫌になったのはいうまでもない。

「…えぇ、まあ。
お陰でぐっすり眠れました。」

お兄さんを振り返った時点で、真田君の手は離れていたのか普通に話せた。
俺は部屋に入って襖を閉めるお兄さんを、本音を隠して笑顔で迎える。

「そりゃ良かった♪
それでこそ腕によりをかけて作った甲斐があるってもんだよ、夕飯。」

…それもお前のせいでほとんど食べられなかったがな。

俺はお兄さんをとっとと視界から消し去り、お膳の方を振り返る。
お兄さんは足音を発てずにこちらに歩み寄り、真田君の斜め後ろに座った。
(俺の傍を通る時俺がさっと胴体を引いたのは、きっとお兄さんには気づかれているだろう。)

「…………。」

「…………。」

「…………。」


流れるのは、穏やかとはいえない
粘着性のあるなんとも居心地が悪い空気。


真田君をちらりと盗み見ると、目がうろうろと泳いで、一心不乱にご飯を口に運んでいた。
お兄さんは、外の様子をつらつらと見ているだけのようで、何をする気配もない。

お兄さんが何の用でここに来たのかは知らないが、来ない方が正解だったんじゃないか、と
気づかれないようため息を吐く。

俺とお兄さんが気まずいのは昨日の毒殺のことで明白であり、
(それも俺の独りよがりかもしれないが)
お兄さんと真田君もまた昨日のことで気まずいのだろう。
(真田君を見れば一目瞭然)

俺としては、2人と話さずに済むから都合がいいことはいい…。
俺が引き金になって2人の間を悪くしてしまったと罪悪感を感じていた俺だが、
今はなんでこんなことに巻き込まれなきゃならないんだ、とうんざりしている。

…この沈黙を脱するために、比較的気まずくない(実際気まずいが)俺と真田君が話してもいいが、
俺から話しかける気力は残念ながら皆無。

話した所で邪魔されるのはわかってるからな。

真田君は見たところ、自分からこの沈黙を破ることはできないだろう。














と思いきや、予想外な人物が話を切り出した。

「さ、佐助、昨日はすまなかったな。」

真田君だ。

俺はビックリして目をかすかに見開く。
お兄さんも、まさか謝られるとは思ってなかったのかビクッと体を揺らして自分の主の背中を見つめた。

もごもごと小さい声で言った真田君は、恥ずかしいのか、少々顔を赤くしている。

あぁ初々しいな、

と、年下といえどそう年も離れていない男子に不覚にも癒され、
同時にふつふつとわきあがる不快感。

──────単に、純粋

自分にはない部品。
無くしたら戻らないソレを持つ、目の前の青年に僅かながら嫉妬する。

「あー…旦那が謝ることじゃないでしょ。
つか謝ること何もしてないでしょーが。」

お兄さんが困ったように頭を掻きながら言った。

「────…それはっ、そうであるが…」

うっ、と真田君が言葉に詰まる。

「…………。」

…うん。
そうだ。

別に気を使うわけではないが、

俺はスッと立ち上がって、
いきなり立った俺に驚いて見上げてくる2人を無視して、天井に言い放つ。

「才蔵さん、厠。」




(ただただ巻き込まれたくなくて)

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あきゅろす。
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