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冗談じゃない




「む?どうされた名字殿。
食べぬのか?」

「…いえ、今朝から食欲がなくて。」

「それはいけないでござる!
すぐに医者を…」

「そんなに大したことはありむぇえ

微笑んだ瞬間頬を横に引っ張られた。

…押す次は引っ張りやがった…。
わざわざ焼き魚くわえながらやるようなことでもないだろうに。



今、俺は真田君とよくわからない雰囲気の中で朝飯を食べている。
(正確には真田君。)
全く持って不愉快極まりなかった。

俺の笑顔を剥がすという真田君の先ほど宣戦布告(?)…
ふざけるのも大概にしろ、と言ってやりたい。

大体、俺なんかの笑顔を剥がしてどうなるっていうんだ?
何か真田君が得をするというのか?

否。

真田君が得を得たい場合、まず俺の笑顔を剥がす前にお兄さんの方の笑顔を剥がしにかかるはずだ。
…あぁ、お兄さんはすでにこれを経験済みということか。

………………。

まあどちらにしろあれだ。
これは真田君の単なる自己満足のための行為であり、俺はそれに巻き込まれているだけ。

願うならば、俺は軟禁生活をなるべく穏便に過ごしたい。
が、そっちから干渉されるたら叶わねえ。

庭から部屋に戻れば、いつのまにか2人分の朝食が用意されてるし、表の俺は大人しくその席に座ることしかできなかった。
その際、俺は苦笑いを溢し、天井にいるだろう沈黙するその気配に殺気をプレゼントしてやったのはいうまでもない。



そして冒頭に戻る。

「名字ひょのひはんへんひはらほーへほはふ?
(名字殿観念したらどうござる?)」

「ひょへはほっひほへひふへふ
(それはこっちの台詞です。)」

もうやめてくれ真田君。
俺は意地でも素を出すつもりはねぇよ。

真田君は頬を引っ張られながらも笑みをわざとらしく深くする俺に、
眉間に皺を寄せる。

真田君は口にくわえた焼き魚をモグモグと食べて、飲み込むと、俺の頬から手を離した。

そしてご飯(見たら昨日俺が食べた毒を思い出して吐き気がしてきた)を手にとると、ふぅ、と息をつく。

「…名字殿、昨日の話の続きでござるが、」

「…はい、なんでしょう。」

…続き、ってどこからの続きかがわからないんだが。
そもそもこの笑顔防止作戦を施行すること自体が続きではないのか。


「お主の付き合っていたという女子に刺された所は平気なのでござるか?」

「……………へ?」

思わぬ質問に気の抜けた声が出てしまった。

「平気、ですが…」

俺が不死身なこと知ってるはずなのに、そんなこと聞くのって…
愚問だな。

俺は微笑んで、確認をすることにした。

「真田さん、お兄さんから…その、あの事聞いてますよね?」

「…?なんのことだ?」

真田君は首を傾げ、思い当たる節がないらしい。

いやいやいや…それはあってほしい所だぞ…

…知らなかいのなら、
教えて、俺を毛嫌いするようにさせるか。
煩わしい存在が消えて、俺は平穏な生活を…

─────…

俺には無理か。
そんなこと。
出来ない。

(嫌われるのは、嫌だ。)

「…いえ、何でもありません。
怪我の方はホントに大丈夫なんで、ご心配はいりませんよ。」

…拳をギュッと握った。
ニッコリと真田君に笑顔を向ける。

すると、

いだぃでうさらだらん
(痛いです真田さん)」

「お主が悪いのでござろう?」

俺悪いことしてねぇっての。

真田君の手が瞬時に伸びてきて俺の頬をつまみ上げた。

…これからこれが続くんだろうか。
最悪だ。

「!佐助か?」

真田さんが襖を見てそう言う。

えっ、と俺は背後の襖を振り返り、
同時に開かれた襖から見えた迷彩柄に、
俺は殺意が少々沸いた。

「おはよう旦那っ♪
…名前ちゃんもおはよ。
昨日はゆっくり休めた?」




(その笑顔に釘付けにされた)

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