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なんというか




「……………はぁー…。」

もはやため息しか出ない。

目が覚めると、誰かが移動してくれたのか、白い寝間着を着て布団の中で寝ていた。

どうやら不本意ながら、無事に生き返ったみたいだ。

窓の障子から射し込む日差し。
夜はもう明けている。

はっはっはっ…
毒もへっちゃらなのか俺の体は…。

上半身を起こしてペタペタと自分の体を触るが、
昨日お兄さんに噛まれた首の傷、
手首につけた筈の傷が跡形もなく消えていた。
もちろん胃に焼けるような痛みはない。

「…………リセット…。」

全部元通りってわけか…
まるでアレだな…


お兄さん達は俺のいたトコでゲームのキャラクターだったけど、
まるで俺がゲームのキャラクターみたいだ。



死んでもやり直し可能なとことか…。

ここにとって自分はフィクションの存在…
本当に駒にされてるのは、俺だったりしてな。

なんて、
…そんなことねぇか…。

もそもそと起き上がって、枕元に置いてあった昨日の着流しに着替える。

襖を開けると、もう既にご飯が準備されていた。
お腹が空いているはずなのに、それを見て少々頬をひきつらせる。

正直言って食欲がない。
昨日毒を盛られたのだ。
杞憂が先走り今日1日はご飯に手をつけられそうもなかった。

頭を掻いて欠伸を洩らし、とりあえず顔が洗いたい俺は、天井を見上げた。

「………えーと、あのー誰か居ます?」

…しーん…。

え、反応無し?
お兄さんが昨日1日中監視されてるって言ってたんだけど…?

「…………あのー、顔洗いたいんですが…。」

…しーん…。

…うん、居ないな。
んだよちくしょー。
顔くらい洗わせろよ…。

「狽わ!!び、ビックリした…」

「………。」

二度寝でもしようかと布団に引き返そうと振り返ると、黒ずくめの男が居た。
口元しか見えていないからかすごい不気味な雰囲気が漂う。

全く気づかなかったが…
いつから俺の後ろにいたんだこの人…。
忍ってみんなこうなのか?
つか目見えてるこの人?
頭を黒い布でぐるぐる巻きにしてるけど。

チラッと男の脇から布団の在った部屋を見ると、
布団はすでに片付けられている。
ミラクルだな。

「顔洗える場所ありますか?」

ニッコリと笑って背の高い男を見上げた。

「……………。」

すっ、と無言に佇んでいた男が動き出す。
男は廊下に繋がる襖とは反対側にあった障子に音もなく歩み寄ると、障子を開いて庭を露(アラワ)にした。

俺がそれを目で追っていると、男に、顎をクイッと振られた。

付いてこいということだろうか。

意味を理解した俺は慌てて庭に出てった男を、縁側に置いてあった下駄を履いて追いかける。

「…………、」

庭の中央あたりに突き出る石で作られた丸い筒。
その上に取り付けられた木枠と紐。
…井戸?

男は既に手に水の入った桶を井戸の枠に置いて待機していた。

「あ、りがとうございます。」

あまりの早業にどもってしまう。
魔法でも使ってんじゃねえかコイツ。

俺が到着すると男が少し退いて、俺に桶の前を明け渡す。

桶を覗き込むと、透明な水がキラキラと朝の太陽に照らされ光を揺らしていた。
そこの中心に俺を見返す自分の姿。
笑顔をかぶったソイツがいる。
しばらく見つめ合うと、俺は手を浸してソイツの顔を霧散させた。

その時フッと横から首を触られ、ビクッとして男を見返す。

「?なんでしょう。」

困ったように微笑みながらそう言った。
男の手は確かめるように首筋を触ると、
布の合間から見える口が開いた。

「きれいに治っている。」

「!…あぁ、みたいですね。」

男が触れた部分に変な覚えがあると思ったら、昨日お兄さんに噛まれた場所だったのかと納得。

笑顔でそういうと、男の口はさらに声を発した。

「…何か仕掛けをしてるのか?」

疑り深く聞く男。
だがそれを聞きたいのはこっちだ。

「さぁ。少なくとも僕はしてないつもりですけど。」

男はもうそれ以上何も言わなかった。
きっと無口な人なんだろう。

手に水を掬って顔にばしゃりとかける。
しっとりと肌に吸い付く水を肌に馴染ませ、洗い流す。
現代のように洗顔料がないが、そこは我慢するしかあるまい。

冷たい水に目をギュッと思わず瞑り、それを何回か繰り返す。

「手拭いでござる。」

「え、あ、ありがとうございます。」

横から差し出された手拭いで顔を拭いた。

はースッキリした。

「…………、」

ん…?
ゆっくりと顔を上げた。
今の声…。

横を見ると、そこにいるはずの男はすでに居なく、
代わりに真田君がこちらを神妙な顔で見返してきた。




(朝から胃に悪い)

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あきゅろす。
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