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暗闇に包まれ




それに静かに耐えていると、
不意に行為が止まった。

「…?」

暫くしても何もされない。
なんだと思って振り返ると、口端についた血を舐めとりながらニヤリとお兄さんが不敵に笑う。

「アハー冗談♪
ヤりはしないよ。」

と言って俺を引き起こしながら、元の場所に座った。

「………、」

「…?何?シたかった?」

ポカンとした俺を見てかお兄さんがズズイッと近づいてくるのを、「一回死んで下さい。」と制止させる。

はぁ…と肩を落とし、落ちたお椀と箸を拾って脇に置いた。

…飯が…。

「…冗談ならここまでしなくてもいいじゃないですか…」

首から滴る血。
疎ましくお兄さんを睨み付けた。

「いや〜つい。
てか別に俺様名前ちゃんのこと全部信用してないわけじゃないからね。」

「…あぁ、不死身のこととかですか?」

「目が虚ろだよ(笑)
…まぁ第一に素が出てこないと名前ちゃんを本当に犯したことにならないからね。」

「…そのための"僕"ですから。」

ニコッと微笑む。
今の表の偽者の"僕"が身代わりに傷付けば、"俺"は傷つかずに済む。
そのための笑顔だから。

「…んまぁそゆこと。
あ、はい新しい箸。」

「どうも…。」

どっから出したこいつ。
(つか飯は用意しねぇのかよ)

「話は以上かなあ。
部屋とかは勝手に出ないでね?
といっても一日中監視付きだから。」

天井を指差すお兄さん。
微かにカタリと天井が音を発てる。
監視、とは部下のことだろう。

言いたいことがあるんだけど、
お兄さんは部下がいたのに襲ったんだな。

「取り敢えず呼べば出てくるから要件あったらそいつに言って。」

「はぁ…わかりました。」

「じゃあ俺様は旦那に来るなって言われてるし、自分の部屋に戻るわ。」

お兄さんは立ち上がって出入口へと向かう。

「…………あの、」

襖を開けたお兄さんの背中に呼び掛けた。
微かに捻った噛まれた首に痛みが走る。

「ん〜?何?」

「…お兄さんが真田さんが嫌いな理由、わかりました。」

あの純粋な笑顔が脳裏を過り、苦笑いをした。
お兄さんはあぁ、と一息ついて、

「あんた、明日から苦労することになるかもねぇ。」

とどこか遠くを見て言う。
ん?と俺は首を傾げた。

「うん、まぁ明日になればわかるから。」

「…そうですか。」

むっとして投げやりに返事をした。

「それより早く夕飯食べた方がいいんじゃない?」

襖のわくに寄りかかりお兄さんは、前にも何度も言っていることを繰り返す。


「言われずともそうしますよ。」

俺が再び夕飯に手を付けようとすると、

「って、もう遅いかな?」

「…何が…っ…!?」

グラッ

と目の前の景色が歪んだ。
倒れそうになり畳に手をつく。

「あぁあー。
俺様言ったのに。」

心臓の動悸が早まって汗が身体中からジワリと吹き出た。
明らかに体調がおかしい。

「何を…っしたんですか…!!
ゴホッ…!」

手を当て、咳をすると手にべっとりとつく

どす黒い血

「遅延性の無味無臭の毒だよ。
一滴でも口にすればどんなに健康な大男だって必ず死に至る毒。」

「ど…く?!」

夕飯にそれを入れたのかコイツ……!!

「あんたを殺して生き返った例は合計578回。
でもそれはすべて物理的に殺害する方法だけ。
毒殺は試してないからね〜。」

「こ、のっ外道が…はぁっ」

ありったけの殺意を込めてお兄さんを睨み付ける。

お兄さんはニヤリと笑って、

「明日、生きてたらまた会おうか。
名前ちゃん♪」

と言って部屋を出ていった。

それを見届けると俺は息切れしながら、身体から力が抜けて畳みに倒れ込んだ。
焼けるように胃が痛い。

「ぅ゙あぁあ…っ!」

小さく断末魔を上げながら、痛みにもがき苦しんだ。
畳の目を引っ掻き、どこというわけもなく、身体を前へと進める。

酷い死に様だ。
まるで生にすがるように、手を何かに伸ばすと、俺は力尽きてその場に伏せた。











「…………。」




(天井から消える気配)

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あきゅろす。
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