ほら油断大敵*
「あ、ご飯食べていいよ?」
「……いただきます…?」
勧められた通り、ご飯のお椀と箸を手に取り、1日ぶりに食にありつく。
…うん、うまい。
おかずを混ぜつつ白米を食べる俺を見ながら、お兄さんはいつもとは少し低い声で話始めた。
「とりあえず、拷問して悪かったよ。
ごめんね名前ちゃん。」
「えっ…?」
俺の動作はすべて停止した。
今、何ていった?
お兄さんの口から反省の言葉が出なかったか?
顔をゆっくり横へ向ける。
お兄さんはいつもの笑顔でで、
「だから悪かったっていってんの。」
と言うと、ほらご飯食べて、とわざとらしく俺を催促した。
「旦那はとりあえずあんたの話を信用することにしたみたいだしさ。
俺様も見かけだけは信用してるようにしないとね。」
「…………見かけ、ですか。」
嫌な言葉遊びだ。
俺は再びご飯を口に運んだ。
それを俺に直接言えてしまうお兄さんの神経がわからない。
「そ♪見かけ…。
だから怪しい行動を少しでもしたら…、」
声色の変わったお兄さんの声にハッとした刹那、
ガシッ
「狽チ…!?」
カラン────
お椀と箸が音を立てて落ちる。
────ドサ、
抵抗する間もなく視界が廻った。
畳の匂いが鼻を掠り、気付いた時には既に、
俺を押し倒したお兄さんのにこやかな笑顔が目の前にあった。
「…何の、つもりですか…。」
あの時と違って腕が自由ではあるが、お兄さんの肩を押すもビクともしない。
心の中で舌打ちをする。
「あんたって呆れるほど無防備だね〜。
もっと警戒しててもよかったんじゃない?」
それを利用してんのは誰だ!
クソッ
「以後気をつけます。
だから離れて下さい、」
顔を背けてお兄さんの胸を強く押す。
「アハーもう遅いって。
何、誘ってんの?
警告のつもりだったんだけど、このまま布団でもいいんだよ?」
隣の部屋にもう敷いてあるしね♪と耳のすぐ側で囁かれて、
体をびくりと震わせ、顔に熱が集中した。
無駄にいい声しやがって…。
「できれば"素"になって欲しいなぁ…」
「素…?
ふざけないでくだっいぁっ…!?」
ガブリと首に思いっきり噛みつかれ、声が上ずってしまった。
首筋に犬歯が突き刺さる。
「痛っ…!」
そこから血が流れるのを感じると、お兄さんがそれを舐めとり傷に執拗に舌を捩じ込んで来る。
ジリジリとした痺れるような痛みの波ががお兄さんの舌が蠢(ウゴメ)くたびにやってきた。
「ぐっ…!」
身をよじって反転させ、それを止めさせようとすると、
今度は着流しの襟をずらされ、うなじを甘噛みをされる。
「っ…!」
さっきみたいに本気で噛まれるのでは、と思わず肩に力が籠った。
ぐにぐにと、何度か皮膚を千切るか千切らない程度に歯を食い込ませられる。
このまままた俺は流されるのか…?
(込み上げてくる涙)
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