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ドロドロ空間




当然といえば当然。
しばらく無言がつづいた。

現在地は…わからないけど廊下をひたすら歩いている。
俺は下をうつ向いてお兄さんの後をついていき、お兄さんも前を向きつつも、目は明後日を見ているだろう。

たぶん考えていることはほぼ同じだ。
真田君が怒った理由…。

俺が心の奥で辛いと思っているというのは真田君の激しい思い違いであるが、
そう思ってもいなくても、笑顔が仮面だということに対して怒ったというのは、明白だった。

初対面だからまだなんともいえないが……
真田君はもっと我慢ができる子だと思う。

おそらく俺だけあの場にいたのであれば、怒鳴られるようなこともなかった。
…かもしれない。

あの真田君の言葉は、お兄さんに対しての言葉でもあった気がしてならなかった。
真田君が言っていた"まるで誰かそっくり"の誰かはお兄さんの事だと思うからだ。

昔付き合ってたあいつ曰く、
"幸村がまだ小さいころから佐助は一緒だった"らしいし、

その頃からお兄さんが笑顔を使っていたとしたら、

それで真田君がそれに気づいていたのだとしたら、

これまで、溜まりに溜まっていたものがあったのかもしれない…。
それがあの場で俺を引き金に────…。

………。

全て憶測であるけど。

俺が入ってはいけない凍結された間ではなかったのか、と思うと、
なんとなくお兄さんと同じ空間が気まずい空気に感じた。

…それにしても、
(ほとんどがお兄さんに対してだったとしても、)
あんなにはっきり言われたのは初めてかもしれない。

皆この笑顔に簡単に騙されてきた。
なのに…まだこちらに来て2人しか会っていないが…2人ともに笑顔が仮面だと見抜かれてしまった。
あの2人が特殊なだけかもしれないが、愛想笑いがアイデンティティーのような俺にとっては、気持ちの良いものではない…。

胸の奥で黒いものがどろどろと渦をゆっくり巻いていた。

「…名前ちゃん?」

「…っ──わっ!!」

はっと我に返ると、目の前にお兄さんの顔があった。驚いて俺は後ろに飛び退く。

が、

「っ…!?」

不覚。

勢い付いてしまったのか、体は止まることなく後ろへと傾いていった。
ヤバッ…!?と思うや否、パッとお兄さんに手を掴まれて引き戻される。

よかった…

「あ、ありがとうございます。」

ニッコリと笑顔を讃えてお礼を言った。

「…どーいたしまして♪
何か考え事?」

────…。

「…お兄さんもでしょう?」

クスッと笑いながら上目使いでお兄さんを見上げる。
お兄さんは俺と目が合うとニヤッと口角を上げた。

それも一瞬のこと、すぐに目をそらされ横の襖をお兄さんが開ける。

…ここがこれから住む俺の部屋なのだろう。
既に灯りが点(ツ)けられ、夕食らしきお膳が用意されていた。

手を引っ張られ、手を掴まれたままだったことを再認識しつつ、部屋に入ると、部屋の中にも襖があり、さらに隣にも部屋が続いてるらしい。

…隣まであるのか…。
…1人には広すぎる。

部屋を見回していると、お兄さんに手を引かれ、お膳の前に座るよう促される。
お兄さんが先に横に座り、
俺も吊られてそのまま座り込んだ。




(明かりが作る2人の影)

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