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大嫌い大好き




「…名前ちゃん。
また穴掘られたいの?」

それなら喜んでするけど?と、いい笑顔で言ったお兄さんからサッとすばやく顔を背けた。

あってたのか…。
ああもうなんでこうなるかな…
俺別にわざと言ってるわけじゃないんだけど…

青年…もとい真田幸村君は不思議そうに、俺とお兄さんを交互に見比べていた。

お兄さんにナチュラルに

「"穴を掘る"?何のだ佐助?」

って聞いちゃっている所から、全く今の状況をわかっていないのだろう。

「…旦那、まだ名前言ってないでしょ。」

「む?おぉ、そうであったな!
申し遅れた!
某は真田源次郎幸村でござるっ!」

「…はぁ。」

長っ

「じゃなくて……
…………うん、もういいよ。
俺様面倒くさくなっちゃった。」

お兄さんはため息混じりにそう吐き出した。

「どうせ墓穴掘っちゃったんでしょ?
名前ちゃん…
自分の穴掘られる前に自分で掘られちゃ叶わねーよ…。」

またセクハラ紛いなことを…っ
いや紛いじゃない。
正真正銘のセクハラだ。

どうやら諦めたらしいお兄さんだが、このまま黙っていたらいつどこで拷問されるかわからない…。
証拠にお兄さんのが終始、まるで餌をお預けされている猛犬のような目をして、笑顔をこちらに向けている。

真田幸村君を見ると、頭の上に?を数個浮かべるばかりで、気づく様子は未だに皆無らしい…

「で?
名前ちゃんは観念してくれるのかな?」

お兄さんの口から出た言葉。
つづけて真田君も口を開く。

「…話すか、話さないか…
心を決めて下され。」

二人の強い物言いに、
少し俯いて俺は悩む素振りを見せた。

「…………(馬鹿か俺は…)」

…別に悩むことなんてない。

躊躇(タメラ)う必要なんてない。











ここは俺のいた場所ではない。
俺は当に死んだ人間なのだ。

ただ俺は現代で望み通り死んで、
何故だかわからないうちに転生して、
このゲーム上の話のはずのこの場所にきて、
運の悪いことに間者だと勘違いされた。

…それだけ。











なのに声が喉でつっかえて何も出てこなかった。

例え、言ったのだとして、
そんなこと誰が信じるんだ?

悶々と身体中を不穏な空気が満たしていった。
相手に自分がどういう風に見えるか、
それだけが思考回路を流れて、

「(本当に大馬鹿者だ…俺は…)」

こんな状態になっても、

自分が平穏でいられる、
居場所を求めている

…自分が死ねないんだとわかって、自分を醜く守るだけになった、自分に残されている道はこれしかないのか…

葛藤は続くが、決断せねばならない。

直線上に座る真田君が、黒く澄んだ目でこちらを見ているのを肌で感じる。
お兄さんも…たぶん、見ている。

………、…仕方ない…
またあんな行為をされるのはもう嫌だし…
もうこうなったら信じる信じないの問題でなく、ありのままを話した方が身のためだろう…

それが最善の方法だ。
(平穏を保つためには…)

「…わかりました。」

話しましょう。




(自分が大好きだ)
自分が大嫌いだ


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