現代人戦国人
はっきり言おう。
この風呂場すっごい不便だ。
風呂場の壁とか床とかに檜を使っているのか、匂いは凄いいいんだけど…
第一に薄暗い…。
蝋燭が風呂場の天井近くにいくつかあるけで他はなんもなし。
目が悪くなりそうだ。
あと蛇口ってものがない。
故に水は浴槽から桶に水を掬って頂くわけで、物凄く面倒くさい。
となりのト*ロだって蛇口はあるぞ…
いつの時代だよこの風呂…
って戦国時代か…。
「(おまけに物凄く湯が熱い…)」
湯を頭からかけることもままならねぇじゃねえか…。
湯気で無駄に汗かくし…軽くサウナ状態だ。
…不覚にも現代が恋しくなった…。
現代っ子に不便ってのは辛い仕打ちだ…
俺は東京生まれだからさらに、だ。
木製の銭湯によくある椅子に腰掛け、ため息を盛大につく。
手に持った桶の湯が多少温(ヌル)くなったかを確認して頭から湯を被(カブ)った。
やっとこれで三回目だ。
「あ、つ…!」
ああもうなんでこんな思いをしなきゃならないんだ…!!
死ね俺!今すぐ死ね俺!←やけくそ
手拭いを濡らして石鹸で泡立ててから体を擦っていく。
その前に桶に熱湯(←嫌み)を汲むのをわすれずに。
「っくそぉ…戦国の人ってこんな熱い湯に浸かるのか?」
人間じゃねえ!
…って人のこと言えねえか…。
「…………。」
嘆いていても仕方ないのはわかってるのにな…。
悪い夢を見ているとしか思えねえ…。
自然と手首を見つめる。
その手首には、目が覚めた時に傷付けた傷が残っていた。
通りでさっきから地味に痛むと思った。
…リスカ…とか、やってみたことないけど…
今ならできる気がする…
「…っつって、出来ないんだけどな…」
ハハッと乾いた声で短く笑った。
桶を持ってお湯を被る。
「ぁっついっ…ての!」
この野郎…!!
…水相手に怒る俺めっちゃダセェ…
お兄さんの策略じゃないだろうなこれ…
どっかで見てそうだ…。
「…油ってこれ、だよな…。
石鹸あるならよくね?」
風呂場の端に置いてある桶の中を触れるとヌルリとした液体が入っている。
うぇえ触っちった…。
なんか卑猥な物を思い出して仕方ない…
ローションみたいだ…
こんなことしか思えない俺の頭が幼稚なのか大人なのかは、また今度考えることにしよう…。
とりあえず石鹸を使って頭をささっと洗って、予め桶に溜めて置いたお湯を、被った。
「───…っ!」
…ここで熱いと言ったら負けだ…!←何の勝負だ
「…はぁ…。」
二度目のため息。
これからここに住むのか…
気が重い…。
軟禁されるのは構わないがいろいろと不便な事が多そうだ。
…褌とかね。特に。
自分で今度下着を作ろう。
…裁縫ができるできないは別として。
髪の毛から水が滴り落ちる様子をしばらく見て、最後に湯をもう一度浴びる。
そろそろ出よう。
お兄さんを待たせるとろくなことがなさそうだ…。
腰に手拭いを(一応)巻いて立ち上がる。
─────その瞬間だった。
ガチャ、
「え、」
「う?」
え、誰?
茶髪の青年が突然風呂場に入ってきた。
背高い…しかもすっごい筋肉。
見た目に合わない。
青年は俺を見たまま固まっている。
「え、と…こんばんは?」
ニコッと、お兄さんの時と同じように取り敢えず微笑んでみた。
すると青年は面白いほどみるみる真っ赤になっていき、
「はっ…」
「…は?」
「破廉恥でござるぅうううううううう!!!」
「うぁ…!?」
…俺の予想をはるかに越える大声を発した。
咄嗟に耳を押さえる。
ハレンチ…?え、何が?
「あの、ちょっとお兄さピシャリ………。」
問う前に青年に文字通りピシャリと扉を閉められてしまった。
あとを追いかけようとして扉の取っ手に手をかけるが、…
…出てっていいのかこれは?
大声出されるのはもう勘弁なんだけど。
(蒸し上がるぞ俺)
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