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暗闇自己嫌悪




俺はてっきりお兄さんが出てきた穴から出るのかと思ったが、普通に横の鉄格子の扉を通って、外に通じるらしい階段を登って行った。
階段はトンネルを作って木で補強して造ったみたいで、出口があるはずの階段の上は真っ暗で何も見えない。

そりゃあ炬(タイマツ)が一つだけあるだけだからな…牢の前に。
出口はきっと固く閉じられているんだろう。
…にしても暗すぎないか?

お兄さんが先陣をきって歩き、俺はそのあとを付いてゆく。

「暗いから足元気をつけてね〜」

「わかってますよ…。」

段々と暗くなってゆく周囲。
お兄さんの迷彩柄も曖昧なものへとなっていく。

お兄さんの足音と自分の足音が一際耳に大きく聞こえた。

「………。」

「………。」

にしても…

「いつまで続くんですかこれ。」

俺がいたとこどんだけ地下だったんだ。
よく酸素があったな…
通気孔なんて見当たらないのに。

「あともうちょっとかな♪
何?怖くなった?」

からかうようなお兄さんの声色。

「んなわけないでしょ。
暗闇には慣れてますから。
むしろ、暗闇にいたほうが落ち着きます。」

(自分を呑み込んで一瞬でも消えたように見せてくれる)

「…そう。
気が合うね、俺様もだよ。」

「……そうですか、」

続けて忍だからね♪とふざけたように言ったお兄さん。
(一瞬お兄さんの自重気味な笑顔が頭に浮かんだのに、台無しだよ全く)

…忍なのにその格好はどうかと思うんだけど、俺の思い過ごしなのか?

「あー…暗闇が好きなら、もしかして旦那のこと苦手になるかもね。」

旦那…あぁお兄さんの主か。

「お兄さんは苦手なんですか?」

「…少しだけ。」

ぼそりと小さく呟かれた言葉にぶっと思わず吹き出した。

「そんなこと言っていいんですか?
貴方の主でしょう。」

まさかの展開だ。

その間も階段をゆっくり登ってゆく。
既に周りは暗闇だ。

「だって本当のことだしね…。
人使い荒いくせに低給料、忍なのに団子のお使いに行かされてその代金は自腹。
嫌でも苦手になる…なんてね。
主な理由はそうじゃないけど。」

「…(貴方の部下もですが)貴方も物好きですね。
主な理由は?」

「うんボソって言っても聞こえてるからね。
きっと会ったらわかるよ。」

会ったらわかるって…

「結果的に僕は貴方の主について武田信玄配下の武将ということしか知らないんですけど。」

「あれ?そう?
じゃあ異常な甘味好きの武将ってのも追加しといてよ。」

「なんですかそれ」

…へんなの。
お兄さんとの会話にいらいらしない。←いらいらしてたらしい
仮にも犯された相手なのに…。
暗闇でお互いの顔が見えないからか?
思わず俺の素が出てきそうだ…。

「なあ、あんたの名前は?」

「え、あぁ…」

そういえば言っていなかった。

「名字、名前…です。」

「ふーん、名前ちゃんか。」

「狽ソゃ、ちゃん…」

初めて呼ばれた、ちゃん付けで…

「ダメだった?(笑)」

「…好きに呼んで下さい。」

ため息混じりにそう吐き出した。
どうせ嫌がっても呼ばれる羽目になるんだから。

嫌が、る…
………、

「あの…お兄さんは、…」

「ん?」

明るく返ってくる返事。
少し聞くのが怖い。

微かに震える唇を噛みしめ声を発した。

「僕が、気味悪くないんですか…?」

耳鳴りがひどく耳の奥に響く。
自分が言ったことが頭の中を駆け巡った。
同時にぞわぞわと自分の背中に寒気。

自分は気味悪い。
事実だ。
何回殺されても死なない自分の体。
吐き気がする。

普通の人間じゃない。
気色悪い。…人外だ。

「っ………わ、!」

下を向いて歩いているとドンっと前を歩くお兄さんにぶつかる。

「何、急に止まって…っ!」

フワッと両耳が大きな何かに包まれた。
…手のひら?
そのまま引き寄せられる。

「暗闇ってのは、」

「っ!!」

耳元でいきなり囁かれてビクリと体が強ばる。
すぐ横にお兄さんがいる…。

「凶器になるから気をつけろ…。
自分で自分を追い詰めることになるよ?」

「あ…、」

息が…かかる…

「暗闇の中で聞こえたもんてのは思考に深く入り込むんだから。
…わかった?」

「…………は、い…」

「よし。」

…激しくはぐらかされた気がする…

お兄さんが無言で僕から離れると同時にギィイ…と軋むような音が鳴った。
そして射し込む僅かな光。
月光…?
地上に出たみたいだ。

「はい到着♪」

お兄さんは振り返ってニコニコとあの笑顔を浮かべる。
俺はポカンとしてから、笑顔を返し、

「質問に答える気ないんですね。」

と言った。
お兄さんは笑顔のまま、こう言う。

「じゃあどう答えて欲しいのかな?名前ちゃんは。」

………………、

「…さあね。」

わからねぇよ、そんなこと。




(いらいら、いらいら)

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