捕まってあげてもいいんだけど。 捕まってあげてもいいんだけど。 驚いた、としか言い様が無い。 久々に買い物をしに街に出て、疲れたからとたまたま設置されていた背中合わせのベンチに腰を下ろした僕。 暫く座っていれば後ろのベンチに誰かが腰掛けて、ソレが気になって視線を向ければ太陽の光が反射して輝く銀髪が目に入ってきて。 それを見てすぐに当てはまった人物は噂でしか知らなかった人だったのだから。 「…龍樹?」 「呼んだ?朱雀の副総長さん」 無意識に呟いていた名前に反応する様に此方を向いてきた彼。 初めて見る彼は不敵にそれでいて妖艶に微笑んでみせる程に余裕に構えて僕の前に存在していた。 「どうして僕が朱雀の副総長だって知って…?」 「銀龍の情報力を嘗めんなよ(妖笑)」 ニヤリと口端を上げて笑う龍樹の美貌はどんなに美人な女性や美形な男性が相手だとしても負けてしまう程。 正直、そんな彼に僕は見惚れてしまった。 そして僕は唐突に理解する。 総長である芙仁が何としてでも彼を見つけ出せ、と指令を下した理由を。 「欲しがるワケだ」 「…何が?」 「否、何でもないよ(苦笑)」 僕のはっきりとしない返答に眉を寄せて顔を歪める彼。 目の前に居る筈なのに気配が全くと言っていい程感じられない。 「そういやさ、朱雀全体に命令下ってんだって?しかもソレ、俺を見つけ出せってヤツ」 「本当に何でも知ってるんだね」 「見つけ出した後どうすんの?総長に突き出すのか?」 「そ、れは…」 睨みと凄みを利かせる彼に珍しくも僕は血の気が引いていく様な感じがした。 こんなにも格の違う人を手に入れようとしているのか…芙仁は。 彼一人だけでこんななのに銀龍全員を相手にしたら…、そう考えただけでゾッとする。 「ま、捕まってあげてもいいんだけどね。でもそれには条件がある」 「え…条件?」 「そう。帰ってそっちの総長に伝えなよ」 彼がスッと座っていた椅子から立ち上がった気配と共に僕は反射的に振り返る。 すると其処には数十分前と変わらない不敵な笑みを浮かべる彼が居て。 綺麗なまでの銀髪は太陽の光を反射してキラキラと光り、僕は思わず目を細めた。 「アンタが俺を見つける事が出来たら捕まってあげるよってな」 彼は不敵な笑みを張り付けた顔をしたまま、毅然としてそう言い切ってみせる。 まるで宣戦布告の様な彼の言葉に身動き一つ出来なかった。 「じゃあね」 そう何も無かったかの様に去っていく彼を見つめながら、持っていた携帯を開いてメモリーの中から一つ選ぶと通話ボタンを押す。 繋がる先は勿論アイツ。 「驚くだろうな」 早く伝えたい、と急く気持ちを抑えながら僕は相手が携帯越しに出るのを待った。 配布元:セリフ100 ←→ [戻る] |