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すぐ戻るから、イイ子にしてな。


「…っ、ケホ…ケホッ」
「……38.9℃。完璧風邪だな」

ふぅ…とベッド脇にある椅子に座りながら刹弥が溜息を吐いた。
体温計に表示された数字を睨む様に見る刹弥を見上げながら、バレない様に俺もそっと溜息を吐く。
寮の世話係が風邪をひくなんて言語道断だな…。

「ごめ…大丈夫、だから」
「何処が大丈夫なんだ?こんだけ熱あれば大丈夫なワケねぇだろ」
「…っでも、朝食の用意しなきゃ…」
「無理すんなって!!今日は寝てろよ」

ほら、と冷やしたタオルを額に乗せられて、あまりの気持ちよさに目を閉じた。

「俺達の心配する前に自分の心配しろよ」
「う…ごめんなさ、い…」
「なんだ、今日はやけに素直だな──っと。そろっと時間だし行ってくる」
「…ん、いってらっしゃい」
「……………どうした?」

学校に向かう刹弥をベッドの中から送り出す。
だけど部屋を出て行こうとした刹弥は一歩進んだだけで歩を止めて、俺を見下ろしてきた。
当の俺は刹弥の問い掛けの意味が理解出来なくてきょとんと見上げるだけ。

「その様子じゃ無意識か?」
「…?」
「手、離してくれねぇと行けねぇんだけど(苦笑)」
「Σッ!?わ、ごめ…っ!!///」

苦笑気味に視線を落とした刹弥の視線を追い掛けて、俺は慌てて手を離した。
理由は布団から出した右手で彼の制服の袖を握っていたから。

「仕方ねぇな、今日は休むか」
「え…ダメ、だよ」
「いいんだよ、病人は気にすんなって」

シュルッと結んでいたネクタイを外し、ブレザーも脱ぐと水の入った器を持ち上げる刹弥。

「水替えついでに連絡してくるから」
「ん」
「すぐ戻るから、イイ子にしてな」

閉じてく扉の向こう側に消えていく刹弥の後ろ姿を見つめながら、そっと瞳を閉じた。




すぐ戻るから、イイ子にしてな。
(優しい声音で紡がれるその言葉に、ひどく安心感を覚えた)



配布元:セリフ100





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あきゅろす。
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