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無双
馬超×張遼
*OROCHI設定


「張遼殿!」

鼓膜を震わせるその声と乱暴としかいいようのない感じで開け放たれたドアの壁にぶつかる音で私は目を覚ました。
バターンギギーっとドアも私の脳と同じように悲鳴を上げている。
このような起こされ方をするのは初めてではない。
…というか張遼が蜀にいるここ数日はずっとこんな感じだ。
(蜀の軍師殿からも何故か私にちくちくと嫌味がきている)


「張遼殿!今日も爽やかな朝だぞ!」


爽やかなのはこの男くらいだろう。
張遼がどれだけ早く起きこの朝の恒例風景になりつつあるものを阻止しようとしても何故だか不思議にそれを上回る早さに馬超は起きていて、張遼を起こしにくるのだ。
きらきらと朝の光が眩しくて、張遼は思わず布団を頭から被る。
冗談じゃない、寝不足だ、私はまだ寝ていたい のだ。
連日早朝(ほとんど夜明けの時間に近い)に起こされ苛立ちも募っていた。
彼ときたら私を起こすだけ起こしておいて別に用があるわけでもないのだ。
ただ爽やかな朝だとかいい天気だとかそういう事を言って出て行ってそれで終わりだ!
(これを迷惑と言わずに何を迷惑と言うのか!)


「張遼殿…?」



戸惑ったような声が近づいてくる。
その声も、足音も全てを無視して再び眠りの世界に沈んでしまおうとした。
沈んで、しまいたかった。
一度去った私の眠気がまた私を襲うことは無かった。
張遼殿、ともう一度呼ぶ声がする。
その声はひどく揺れていて,今にも泣いてしまいそうだった。
(一体,どうしたというのだ)


「張遼殿,眠っておられるのか。」


良かった,と呟く声が聞こえる。
気配がどんどんと近づいてくるのは分かっているが,意地で寝たふりを続けていた。
何が良かったのか気になりはしたが起き上がろうとする気力も意思も無い。
放っておけばその内出ていくだろうと寝息を立てる真似までしてみる。
しかし予想に反して馬超は側に立ったまま出て行こうとはしなかった。

「張遼殿,」


馬超の手が伸びてきて,布団を捲り頬にそっと触れる。
思わずぴくりと反応してしまったがどうやら起きていることはまだ気付かれていない様子である。
何かを確かめるように数度,馬超の指が頬の上を動いた。
普段の事を考えれば起こす時は文字通りたたき起こされそうなのでどうも起こそうとしている訳では無いようだ。


「俺は,毎朝,貴方が居なくなっているのではないかと不安なのだ。」



珍しい弱気な声。
震えるような声の理由はそれであったのか。
確かに自分は魏に帰らなくてはならない身だがそれにしても黙って早朝に出ていくような勝手な奴だと思われているのか,と考えると少し腹も立ってくる。
(まあ腹が立つのは単純に寝不足が原因なのだが,)


「お願いだ張遼殿,このままずっと,ここに居てくれ。」


近いはずの声が,更に近づいてくる。
今まで馬超の指が触れていた場所に,何か温かく柔らかいものがそっと触れた。
それが何だか頭が理解をするまでに,馬超は急ぎ足で部屋を出て行ってしまったのだった。






(静かになっても,眠れそうにない!)

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