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BSR
小十郎→慶次(1221hitキリリク:紅茶様)
思えば初めて会った時から前田慶次は騒がしい男だった。
口ではへらへらと笑っていて,けれど対照的に悲しそうな目をしている。
俺の目には,この男は馬鹿の様な事をして,全てを忘れたがっているように見えた。

この男に深く傷を残し,そうさせている過去とは何なのだろうか,と最初はただ気になっただけだった。
こいつの周りはどいつもこいつも(特にあの夫婦だ,)幸せそうに見えるのに,何がこの男を傷付けたのだろう,と。
抱いた興味はそのまま消えずに,つい目でその姿を追ってしまうようになる。
この男の中に,消えずにいるのは一体誰なのか?
何故それがそこまで気になるのか,最早自分でも分からなかった。
(ただ自分にこれは興味本意なんだと言い聞かせて,)

聞いてしまえば,この感情は失われてしまうのだろうか。
あいつを悲しませているのが何か,知ってしまえば少しは楽になるのだろうか。
最近では考えるほどにちくちくと胸を何かが刺すようで,けれど考えないという事も出来ないまま,ただただあの男を見つめていた。
聞けばいいだろうという気持ちと,何かを恐れる気持ちの間でこれ以上揺れているのは辛かった。
(おいおい一体何が恐いっていうんだ,何が起こるっていうんだ?)

そんな気も知らずにすっかり政宗様の悪友になった前田慶次は度々俺の目の前に現れるようになった。
やれ恋の話がどうだとか誰かとの喧嘩が楽しかっただとかそんな事を喋っては,俺の心を掻き乱していく。
今日もしばらくぺらぺらとお得意の恋の話をしたところで前田慶次はようやく俺が眉間に深い皺を作っている事に気が付きその話を中断した。


「そんなに眉間に皺寄せてちゃさ,色男が台無しだよ。」
「……うるせぇ。」
「もっと笑って生きなくちゃ!ほらお天道さんもあんなに輝いてるんだしさ!」
「…お前は笑っているっていうのか,」
「へ?」
「…………」


少しの沈黙の後,前田慶次は無理に作ったような笑顔で何言ってんのさ,と言った。
震えた声が,一層はっきりとその戸惑いを現わしている。
(お前だってちっとも笑えちゃいねぇじゃねぇか)
引きつった頬に手を伸ばす,泣きそうな目を指で撫でる,
気を抜けば泣いてしまうような,そんな弱さと傷を抱えているくせに,強がって見せているのが痛々しかった。


「悲しい事があったんだろう。だからそんな面してやがる。」
「ちっ…違うよ,これはっ」
「違うなら何だって言うんだ。」
「そ,れは……」
「言えない程苦しい思い出なのか。」


言い返す事も出来ずに,前田慶次の顔がくしゃりと歪んだ。
ぼろぼろとその瞳から,言い逃れが出来ない量の涙が流れていく。
ひど,い とようやく喉の奥から絞り出したような声が届いた。
ああそうだ俺はひどい男だ。どうせ優しく聞き出せなんかしねぇし,結局こうやってお前を傷付けている。
お前をこれ程泣かせる奴には一生敵いっこねぇひどい男でしかねぇんだ。
(そうなんだと分かっているのに,)


「……見っともねぇ面してんじゃねぇ……」


多分この場で一番見っともない面をしているのは泣いている前田慶次では無く俺の方だろう。
この男の心の中に居る奴を全て,叩き切ってやりたい。
そうすればこの男の悲しみは消えるのだろうか,だなんて子供の様な夢物語を考える。

不可能を可能にしようとする若さはもう無くしてしまった。
それなら今の内に突き放してしまえばいい。
もう2度とこの男の顔を見なければ,きっとこの変な感情も興味も何もかもがすべて消え去ってしまうはずなのだ。




「その面をもう俺に見せるな。」





傷の上に,傷を付けて,
忘れないように更に深くして,
(どれだけ身勝手なんだ,俺は)

まだ泣いている前田慶次を残し部屋を去る。
俺の事を好きなだけ憎んで,一生忘れなければいいと思った。















thanks1221hit!*Loch

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