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BSR
政宗×慶次
「あ、」


慶次がその間抜け面から更に間抜けな声を漏らす。
現在の状況はというといきなり遊びに来た慶次は釣竿を振り回しながら「政宗釣りしよう釣り!」と面倒くせぇ執務を片付けていた俺にとっては非常に魅力的な誘いをしてきたので小十郎の制止を振り切り前日の雨のせいか少々ではあるが流れの速くなった川に釣りに来ている、とまあこんなところだ。
大人しく糸を垂らして魚を待つのも中々に暇で欠伸を噛み殺していると(こんなに釣れねぇなんてこいつの服が派手すぎるせいなんじゃねぇのか)急に慶次が慌てだした。
おいおい、竿が揺れてる様子でもねぇし一体どうしたっていうんだ。
慶次は立ち上がるとそのまま川に飛び込もうとするというcrazyな行動に出始めたので流石にstopさせる。
暑さと退屈さで頭沸いちまったのか、こいつ。


「離せよ、政宗!」
「魚釣ろうとしてんのに飛び込もうなんざふざけてんのかてめぇ。」
「ああ、あ、あ、見えなくなった、」
「Ah-n?何言ってんだよ大物でも居たって言うのか。」
「とにかく離してくれ!」


普段はのほほんとしたお気楽さMAXのこいつが珍しく慌てているのを見て少し迷うが慶次を抑える手の力は緩めない。
こんな状況で飛び込んだら冗談じゃねぇ状況になっちまってもおかしくはない、のだ。
(勘弁してくれよ、)
退屈な執務に飽き飽きして飛び出したのはまあ否定の出来ない事実だが、俺の求めていたのはこの馬鹿力な男を抑え込むなんていう時間じゃないはずだ。
ただでさえ暑いのにじっとりと背中にも額にも汗が流れ落ちて鬱陶しい。
それは慶次も同じ事で、肌にまとわりつく髪が見ているだけでも苛々するくらいだった。


「いい加減にしておけよ、オイ……ッ!」


俺の我慢できるlevelも流石に限界点を突破して目の前の頭を手加減無しに思い切り殴ってやった。
いって!と何とも緊張感の無い声で痛みを表現した慶次は頭を押さえ蹲る。
石頭は俺の手にまでdamageを与えやがってぶらぶらと手を揺らすと少しは落ち着いたらしい慶次に声を掛けようとして、止めた。
こんな暑さの中で運動なんていうものをして平気なのは真田の馬鹿くらいのものだ。
しばらくは2人のぜいぜいという呼吸しか聞こえない、何とも嫌なtimeが続いた。



「何であんなcrazyな真似、したんだよ……」
「大事な、物だった…んだ……」
「大事?」



慶次の声は随分と落ち着いていたがまた同時に随分と落ち込んで、悲しそうだった。
俺の拳の痛みのせいだけでなく、その肩は小刻みに震えているように見える。
とても大事な物だったんだ、ともう一度繰り返すと諦めたような目線を川下に向けた。
その姿には、何かが欠けているように見える。
頭の派手な羽飾りでも無い、奇抜すぎる服でも傍らにいる猿の存在でも無い。
ただいつもは胸元でその存在を主張していた紫のお守りが今は何故か見当たらなかった。


「大事な物って、まさかあのお守りの為に飛び込もうとしただなんて言わねぇよなあ。」
「……そうだって、言ったら、」
「お前なぁ、お守りの為にてめぇが危険にあってりゃ世話ねぇだろう。」


Ha、と笑ってやりたかったが慶次の顔はそれが単なるお守りじゃないという事を語っていた。
沈黙と、後悔。
偶には小十郎言う事を聞くもんだ。そうすりゃあお互いにこんな気分にはならなかったのに、
何と言ってやったら良いのかも分からなかった。
こういうsituationはどうにも苦手だ。


「紐が、自然に、切れたんだろう。誰のせいでもねぇ。」


何とか言葉を探して絞り出すようにして並べる。
慶次は何も喋らない。ただ黙っている。
何とか続きの言葉を探そうとすると自分でも驚く事に口から言葉がすらすらと出てきた。
( Illusion! )


「紐が自然になんていうのはな、そういう時期だったんだよ。」
「てめぇにとって大事な大事なそのお守りが必要なくなる時期だった、それだけの事だろう。」
「それにいちいち悲しんでねぇでお前の止まっていやがる場所から前に進めってこった。」


ずきん、ずきん、
話しているのは俺なのに、勝手にこの胸を痛めているのも俺だ。
痛い、痛くて、昔の怖い事が今更になって俺を責める様な、恐怖が甦って、
俺はこいつとは違う。こんなへらへらと笑って調子の良い言葉ばかりを言う奴とは違う、はずだ。
俺はちゃんと前に進めた、
( 本当に、本当にそうなのか? )

頭が痛い、おい、どうしてだ、俺は前に進んでるはずなのに、その足が少しも動いていない。
何だ結局は立ち止っていたっていうのか、そんな、そんな馬鹿な事があってたまるか。
俺は前へ、前へ、前前前前前前前前前…



「政宗。」



すっかり血の気の引いていた顔に温かい何かが触れてようやく現実に帰った。
目の前は明るくて、逆に俺の事を心配した慶次の顔がある。
具合でも悪いのかという問い掛けには答えず未だ頬に触れていた手をぎゅうと握った。
ああ、分かった、こいつは俺と、同じだ。
あの時自分に言い聞かせた言葉は、こいつにも果たして通じたのだろうか。




「政宗、なあ、お前も、もしかして、」
「…俺はもう、歩きだしたぜ。」




次はお前の番だろう、とその胸元を拳で軽く叩いてやる。
過去がもうお前の胸で揺れる事は無いのだ。
























その手を、取って、

( 俺がお前を引っ張ってやるよ )























***
あのお守りがねねからの贈り物だといいという妄想。

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