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恋人達の日常@昼食 (亮介)


教室に射し込む春の陽射しが心地良くて、ついつい寝てしまいそうになる。けど、なんとかそれを堪えて速く授業が終わらないものかと、時計と顔を見合わせる。早く昼休みの時間にならないかな、と時計の針をじっと見つめた。
あと少しで、名前と話せる。だから早く、チャイムよ鳴ってくれ。
クラスも違うし、俺は部活で忙しいし、名前はバイトで忙しい。そんな俺たちにとって、ゆっくりと話せる時間は休み時間しかなくて、長い昼休みがとても貴重だった。それに、昼休みに取る昼食はいつだって名前が手作りのお弁当をくれるのだ。
それもあって、毎日の昼休みが、楽しみで仕方ない。

今日はお弁当には何が入ってるんだろ。昨日は鮭弁当みたいなので、一昨日はパスタがメインの洋食だったっけ。あれは美味しかった。まあ、いつも美味しいんだけど。…などと考えているうちにチャイムが鳴った。
授業終了の挨拶をして、教室を後にした。良い天気の日は屋上で食べるというのが、名前との暗黙の了解になっていたからだ。
先程自分がいた席に眩しいくらいに射し込んでいた太陽の光を思えば、快晴なのはわかっていたけれども一応、屋上に向かう階段から窓越しに空を見上げれば、思ったとおりに雲ひとつない快晴だった。



***



屋上の扉を開ければ、よく覚えのある彼女が「遅い!」と声をこちらに投げてきた。

「昨日は俺の方が早かったんだから、お相子でしょ?」
「でも一昨日はあたしの方が早かったって」
「その前は俺だけどね?」
「それの前は私が早かったよ」
「でも、その前は…」
「あーもう!良いからお昼食べよ!」

名前が早いときはいつだってこの掛け合いをしている。言い出すのは名前で、終わるのも名前。終わりはいつだって俺の言葉を遮っての終わりなのだ。きっとこの言い合いは、名前の決まり文句みたいなものになっているのだろう。

そんな決まり文句を終えて、腰を下ろして名前からお弁当を渡される。どこかのブランドの小さな紙袋に入った二段のお弁当を手に取って蓋を開けようとすると「さて、今日のお弁当はなんだと思う?形、崩れてないと良いんだけど…」と不安そうな顔を向けられる。

「崩れちゃダメなヤツなんだ?」
「うん、絶対にダメ。崩れてたらかなりショックだし」
「うーん…なんだろうね?」
「わかんない?じゃあ、開けてみて?」

言われて二段とも蓋を開けてみれば、上の段には色とりどりのおかず、下の段にはケチャップでハートの描かれたオムライスが入っていた。描かれたハートは可愛らしくて笑みが零れる。

「オムライス、上手に出来てるじゃん。ハートも可愛いし、崩すの勿体無い」
「もったいぶってないで崩さなきゃ食べれないんだから、なんの遠慮もしないで食べちゃってよ?食べない方が勿体無いんだし」
「わかってる、ちゃんと食べるってば。その前に、写メ撮っておこうかな」

ポケットから携帯を出して、カメラを起動し、ピントを合わせてシャッターを押す。と、カシャ、というシャッター音が響いた。
それを保存させてから携帯をポケットに戻して手を合わせて「いただきます」と声にすれば名前もそれに倣って「いただきます」と口にしてから自分のお弁当の蓋を開けていた。
それを見ながら、メインのオムライスをひとくち、口に含んでみた。ケチャップの味を先頭にして、たまごだとか他の味がついてきた。それからケチャップの味が強く感じた。それはきっと、濃い味が好きな 名前が作ったオムライスだからなのだろう。けど、まずくはないからいつだって濃い味でも文句だなんて言ったことはなかった。それに、作ってもらっているのに文句なんて言える身ではないのだ。…まあ、文句を言ってやろうだなんて思ったことはないのだが。
それからもうひとくちだけオムライスを口に含んで、「美味しいよ」と言えば、言葉の代わりに笑みが返された。

恋人達の日常
@昼食


(2008/12/14)




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