君の笑顔。(帽子屋)
アリスはいつからか、この世界への扉を閉ざしてしまった。
絶対的な存在のアリスがいなくなってしまった俺たちにとって、それはただ暗い日々の幕開けだった。
女王のようにアリスを溺愛していた名前は、来る日も来る日も
「アリスはどこ?私たちのアリスは?アリスに会いたい…」
と、声を上げて泣いていた。
あの、笑顔の似合う名前が笑わなくなったのだった。俺の大好きな、あの笑顔が。
お茶会仲間である俺もネムリンも、そんな名前を見たことがなくて、なんと声をかけて良いものかわからなかった。
ただ、「またアリスに会えるさ」という、ありきたりな言葉しか言えなかった。
それでも、名前の笑顔が見れることはなかった。
やがて名前も事実を受け入れて、声を上げて泣くことはなくなった。
けれども、「アリスに会いたい」と毎日言うことは欠かさなかった。
笑顔が戻ることも、なかった。
名前の笑顔を見なくなってからどれくらい経った?
あの、大好きな笑顔。
もう一度見たい。
だから、お願いだ、アリス。
早く戻ってきてくれよ。
俺じゃ名前を笑わせることはできないから。
だから早く、戻ってきてくれ。
***
「ねえ、帽子屋」
「なんだよ」
「アリスに会いたいよ…」
名前はそう言って、ティーカップに紅茶を注いだ。
と、同時に白い湯気が姿を現す。
俺は、名前の言葉になんと声をかけて良いものかわからず、ただ手にしていたティーカップの残り少ない紅茶を喉に流し込んだ。
淹れてから時間が経っていたもんだから、美味しいといえるものではなかった。紅茶はやっぱり淹れたてが良い、と再確認した。
「もう何日も何日も、アリスを待っているのに…」
そう言って名前は先程淹れた紅茶を、ふー、ふー、と冷ましてから口にした。
それから、シロウサギが羨ましいよ、と小さく零した。
その時だった。
足音が聞こえたのは。
振り返るとすぐそこには、アリスがいて、チェシャ猫がいた。
思ったとおり、それに逸早く反応したのは、やっぱり名前だった。
「アリス!!!」
そう叫んでから、手にしていたティーカップを、ガチャリ、と音を立てて皿の上に置いて、机を強く叩いて立ち上がり、薄く涙を浮かべて、アリスに飛びついた。
びっくりしたアリスが小さく声を上げると、名前が口にした。
「おかえり、私たちのアリス!」
名前は、遠目に見てもわかるくらいに満面の笑みだった。
ほらやっぱり。
名前を笑わせることが出来るのは、アリスだけなんだ。
そう思ったら、少しだけそれにムカついて、大きく息を吸い込んだ。
「遅いよアリス!」
耳に痛いくらいに響く声。
アリスへの対抗意識が少しだけ混じった、大きな声。
今はまだ、名前を笑わせることは出来ないけど、いつかはアリスにも負けないくらいに名前を笑わせてやろうと思う。
だからアリス、待ってて。
アリスにだけ、名前の笑顔を独占なんてさせないから。
君の笑顔。
待ってて、アリス。
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歪アリ夢ですー。
帽子屋大好き!
歪アリ初書きではないんですが、初めて書いたやつのデータが今は手元にないっていう…OTL
(2008/08/07)
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