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1年目、(亮介)


「亮介さん、今日が何の日か覚えてる?」


1つ下の彼女は、太陽のように眩しい笑顔でそう言い、長い睫毛に縁取られた大きな瞳は、キラキラと輝いていた。
当然、俺はその答えを知っている。けれども、少し意地悪して知らない振りをする。
「あれ、なんだったっけ?」と口にすれば、名前の目から輝きは失われ、みるみるうちに泣きそうな顔になっていく。
いつもは意地っ張りだけど、ほんとうは泣き虫な名前は少しの意地悪でいつだって泣きそうになる。それが可愛くてつい、いつもからかってしまう。
この間だって、少し電話に出なかっただけで「亮介さんのばか!」って電話口で泣いていた。
それがすごく、可愛くて仕方なかった。
普段は意地っ張りで負けず嫌いな名前が、自分だけにしか見せないその姿がすごく愛おしいと思う。

「ほんとに、覚えてないの…?」


涙を目にいっぱい溜めて、名前が俺を見上げる。
そんな上目遣いも可愛い、なんて思いつつも、泣かせるわけにはいかないから、すぐに「うそ。ほんとはわかってるよ?」と名前の頭をぽん、と叩いた。
その瞬間、名前はまた目に輝きを戻して、今にも零れそうだった涙を拭い、笑顔を作る。
泣きそうな顔からすぐに笑顔にさせられるのは自分だけって、少し自惚れてしまいそうになる。


「付き合って1年目なんでしょ、名前?」


そう、今日で名前と付き合い始めて1年目になる。


1学年下の名前とは、倉持を介して知り合った。
「それなりには可愛いと思いますよ、苗字は」と倉持が言うのを聞きながら、今時の女の子って感じの子だなあ、と思った。
緩く巻かれた髪型、艶やかに光るリップグロス、丈の短いスカート。
いろんな部分で、今時っていう雰囲気を放っていた。
「よろしくね」と、軽く挨拶を交わしアドレスを交換して、その時はそれで終わった。
それからメールをしたり、名前が教室に遊びに来てくれたり、昼食を時々一緒にとったりして、一緒に話す機会も増えた。
それから次第に、名前のことを知りたくなっていく自分と、他のヤツと話してる名前に嫉妬する自分がいて、「ああ、そっか」と、名前に抱く感情に気がついた。

そんな、ある日の昼休み。
「好きな人、いないんです?」だなんてタイムリーな質問を名前が投げかけてきて、「名前だけど?」と、口から零れた。考えるよりも、口が先に動いていた。
目を丸くした名前だったけれど、一瞬にして戸惑いの表情を見せて「私も、亮介さんが好き…です」と俯きながら返事をくれた。そう言ってくれた名前の真っ赤な耳を、今でも鮮明に覚えている。

そしてもちろん付き合うことになって、名前は敬語ではなく普通に友達と同じように話してくれるようになった。
けれども、「亮介さん」と呼ぶところだけは変わらなかった。


そんな日から、もう1年経ったのだった。


「良かった、覚えてて貰えて…!」
「忘れるわけ、ないでしょ?ってことで、コレあげる」

そう言って、胸のポケットに隠しておいたペアのストラップを名前の目の前に差し出す。
薄いピンクのうさぎと、それに似合う水色のうさぎが半分になったハートをかかえており、くっつけるとひとつのハートになるストラップ。
近づいてくる1年目に何をあげようか迷っていたときに倉持が「苗字が『このうさぎのペアのストラップが欲しい』って言ってましたよ」と、手にしていた雑誌を広げながら教えてくれた、そのストラップ。

それが俺から名前への、ささやかなサプライズ。


「嬉しい…コレ、欲しかったの」
「ほんとに?良かった、コレにして」

当然、名前は倉持から俺がそんな話を聞いただなんて知らない。
倉持にも言わないように念を押したし、俺が言うことなんて絶対にありえない。
言ってしまえば、きっと今の名前の感動は半減するに違いない。


名前は、満面の笑みで薄いピンクのストラップを手に取り、大事そうにぎゅっと手にした。


「ねぇ、亮介さん。一緒に携帯につけよ?」
「名前がひとつ、お願いを聞いてくれるならね?」
「うーん…私に出来ることなら、良いよ」
「うん、名前に出来るよ。だから、俺のこと、さん付けじゃなくて呼び捨てで呼んでね?」


いっつもどこか喉にひっかかっていた、さん付け。
歳の差っていう埋められない穴を深くしたような、そんな呼び方で、どこか消化不良だった。
さん付けだなんて、他の後輩と変わらないじゃないか、と。
だから今、ストラップとの交換条件にそれを差し出した。


「え、っと…それは、」
「イヤなの?」
「そーじゃなくて、恥ずかしいっていうか…!」


名前はそう、ストラップを握る手で顔を隠しながら、小さく声にした。


「呼んでくれないなら、携帯に付けないよ?」


とても理不尽な、お願い。
そうわかっていても、 綾にどうしても名前を呼んで欲しいという気持ちの方が勝っているからこそ、口にしてしまう。

そんな俺を、顔を隠す指の隙間から名前はじっと見つめる。
俺はただそれに笑みを返して 綾の返答を待つだけだった。


「…りょうすけ」


少し長い沈黙の後、笑顔を向けるだけの俺に観念したのか、名前はぼそぼそとそう呟いた。
自然と 綾のその言葉に先程とは違った笑みが零れる。口元がにやけそうになるのを必死に堪えて、「よくできました、えらいえらい」と、名前の頭をぽんっと叩いた。


「だから、私のお願いも聞いてよ?」
「良いよ、ちゃんと携帯につけてあげる」


言って、携帯をポケットから取り出して、ストラップを通す。
名前もそれに倣うようにして自分の携帯にストラップを付ける。


「ほんと、ありがと…!」


ひまわりみたいな笑顔を作ってそう言う名前に、「どういたしまして」と短く笑みを返した。
そのままどちらともなく唇を軽く重ね、離れたときに「来年も一緒だよね」と名前が小さく息を漏らした。「きっとね」と自信ありげに返事を返してまた、唇を重ねた。



1年目、



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と、いうわけで。
遅くなってしまいましたが、1万Hitありがとう&1周年記念夢ってことで置いておきます。
皆さん、ほんとにありがとうございます!
今後ともよろしくお願いします。


曖昧な内容だけ頭にあって、書いてみたんですが、無駄にダラダラしてる感とかあってすいませんorz
タイトルがなかなか決まらなかった…から、そのまんまです。ネーミングセンス0です。



(2007/10/22 Thank you 10000hit&1周年!)


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