今日の4限目は先生の出張ということで、自習になった。
テスト前ということもあって、ほとんどの生徒がワークや教科書を開き勉強をしていた。
もちろん、私も例に漏れずテスト勉強をしているひとりだった。が、時計の針が授業を半分終えたのを報せる頃に隣の席の栄純くんに「なーなー、 名前っち」と声をかけられたので、 名前っち?と疑問に思いながら返事を返し、英語のテキストを開こうとしていた手を休めた。
「どうしたの、栄純くん?」
「名前っちってさ、春っちと双子なんだよな?」
「え、ああ、うん。そうだけど?」
なるほど、双子の兄の春市のことを『春っち』って呼んでるから、私は『名前っち』ってことね。
「双子なのに、顔似てないなーと思ってさ」
「う、うん…」
『外見が似てない』なんて、言われ慣れてきたことだけれど、やっぱり未だに慣れない。
「双子なのに顔が似てないなんて」って言われてる気がして、あまり良い気分もしない。
小さい頃「双子なのに似てないんだね」と友達に言われたことをすごく気にして、母に「なんで私と春市は双子なのに似てないの?」って聞いたことがある。
母は少し困ったように笑いながら「春市は男の子で、名前は女の子でしょう?男の子と女の子が似てないのは当然よ?それにね、二人とも双子でも、二卵性双生児なんだからあまり似ないの。でも、性格はふたりともそっくりよ?」と、答えてくれた。
その時は二卵性双生児がなにかなんて知ってるわけもなく、ただうわ言のように「そーなんだ」と言った記憶がある。
それから何年か経って、二卵性双生児や双子についての知識を得て、似てないことについて特に気にすることはなくなった。
それでもやっぱり、『外見が似てない』と言われることに慣れないのだった。
『性格が似てる』っていうのはそれなりに言われるけど、やっぱり外見ばかりが目につくものだから、『外見が似てない』と言われることにあまり良い気はしないのだ。
「だってね、私と春市は、二卵性双生児だから…」
「に、二卵性双生児?」
「え、栄純くん知らないの?」
「知らん…!ソーセージかなんかの名前なのか?」
高校生で二卵性双生児を知らない人がいるとは思わなくて、開いた口が塞がらない状況になってしまった。
なんかみんな知ってるイメージあったから、びっくりしてしまった。
でも、自分が知ってるからってみんな知ってるわけじゃないんだし、仕方ないよね…!
あ、だから栄純くんは『似てない』って言ったのかも。
きっと栄純くんの頭では双子=そっくりっていう公式が出来てるに違いないよね、うん。
そう思って、「まず、双子っていうのはね…」と、栄純くんに双子の説明から初めて、一卵性双生児と二卵性双生児の説明をし始めた。
栄純くんは、難しい言葉が出ると頭に疑問符が浮かばせて難しい顔を見せる。
そんな栄純くんに、私は少しでも理解しやすいようにと、英語の単語を書いていこうと思って開けていたノートに、図を描きながら説明していった。
その図を見て理解出来たらしい栄純くんは「おお!」と声を上げて大きく手を打って得意気な表情を見せてくれた。
「…ってことなの。わかったかな?」
「もちろん!だって、すっげーわかりやすかったもん、名前っちの教え方!」
「そ、そうかな?ありがとう…」
満面の笑みで素直にそう言われると照れくさくって、いつもはピンで留めている前髪を下ろして顔を隠してしまった。
すっかり切りに行くタイミングを逃してしまって、自分で切ろうにも失敗するのが怖くて切れずにいて、ただ伸ばしっぱなしにしていた前髪は、唇あたりまで伸びてきていた。
こんなところまで伸ばしたのなんて初めてだ。いっつも少しでも伸びるとすぐにお母さんに切って貰っていたし。
それに、切りに行こうかな…と思っても、この花のヘアピンは去年の誕生日に春市に貰った物だから身につけていたいとか思って、なかなか切りに行かなかった…って、短くてもヘアピンは付けれるじゃん。
テスト終わったら、やっぱり切りに行こう。
「名前っち…似てるじゃん…!」
「え?」
「名前っち、春っちに似てる!後ろ髪伸ばした春っちみたい!」
「ほんとに!?」
言われて、胸ポケットに入れている小さな鏡を覗き込む。
と、たしかにそこには春市そっくりな私がいた。
春市と、似てる。
それが嬉しくて、自然と笑みが零れた。
中身じゃなくて、外見で言われたのは初めてで、嬉しかった。
「ほんとだ、似てる」
「だろ?!」
「ありがとうね、栄純くん!」
思いっきり、笑みを返す。
けど、長い前髪できっとそれは栄純くんには見えていないんだろうけどね。
切ろうと思ったけど、やっぱり切るのやめにしようかな。
***
「春市ー!」
昼休みになって少し経った頃、名前が教室にやってきた。
それはもう、満面の笑みで。
「どうしたの、名前?なんか良いことあった?」
「聞いてくれる?」
「話してくれるんならね?」
もちろん!と言ってクスクスと笑いながら、隣の椅子を引っ張ってきて横に腰掛ける。
「あのね、春市。見て?」
「ん?」
そう言って、名前がピン留めに手をかける。
去年の誕生日から毎日ずっと、その花のピン留めをしてくれてる。
それが嬉しくて、そのヘアピンを見るたびにちょっとニヤけそうになるのは自分だけの秘密なんだけど。
そして、名前がヘアピンを取って、前髪を下ろした。
「わ…」
「どう、春市?似てる?」
「うん、似てるよ」
口元しか見えないけど、口元だけで名前がとても嬉しそうに笑っているのがわかって、それに応えるように笑い返した。
「ねえ、春市。伸ばしてみてわかったの。ほんとうは私たち、似てるんだって」
「だね。こんなことなら、最初から名前も前髪伸ばせばよかったんじゃない?」
「そうなんだよねえ。ちょっと後悔してる。春市と同じにすれば良かったって」
でもね、名前。
名前の前髪は母さんが定期的に切ってたから俺はそうして欲しくても、出来なかったんだよ。
…なんてこと、名前は知らないんだけどね?
「でもま、とりあえず高校の間は春市と前髪同じにすしようかなって思ってるよ?あ、さすがに後ろ髪は女の子だし伸ばしたいから違うけど」
「いーんじゃない?名前は髪長い方が可愛いしね」
「春市は今の髪型がかっこいいよ?」
「どういたしまして」
名前はずっと笑って話をしていて、俺はそれが嬉しくて、笑ってばっかだった。
ハタから見たら、すっごいシスコンとブラコンに見えるんだろうけど、別にそれでいいやと思ったから、気にしないことにした。
双子ですから、
外見で似てる場所が出来て、嬉しいの。
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連載しようと思ってボツりました。
(2008/09/29)
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