百万回の間接キス(春市) 「あ、それ新発売の紅茶だよね?」 名前が指差す先にあるのは、俺が手にした紅茶の入った牛乳パック。 それは先程、俺がストローを指して少し口にしたものだった。 牛乳パックにはりんごのイラストが描かれていて、赤系統の色で統一されていた。 りんごのイラストが語るように、中にはアップルティーが入っている。 「そうだよ、最近発売した新しいやつ」 「へぇー、おいしい?」 紅茶好きの名前が、目を輝かせてそう問いかけてきた。 紅茶じゃなくたって、新商品の飲食物を買ってこれば「おいしい?」と聞いてくるんだけれど。 小さいころから、いつもそう。変わらない、名前の性格。 「うん、おいしい。前に買ったアップルティーよりも、こっちのほうが俺は好きかな」 そう言ってからストローに口をつけ、紅茶を喉に流し込んだ。 「ねえ、春市」 猫なで声で、名前を呼ばれた。 「なに、名前」 「それ、少し頂戴?」 言うと思った、と小さくため息を吐けば、名前もその行為は想定済みだったようで、小さく笑みを零していた。 いつだってそう。小さいころから名前は人のものを欲しがった。特に、新しいものは。 「もーらい、っと」 まだ何も返事をしていないのに、素早く名前が牛乳パックを奪った。 そしてなんの躊躇いもなく、ストローに口を付けた。 俺が口を付けた、そのストローに、淡い桃色のリップをした唇が付けられたのだった。 それから少しして、透明なストローの中をアップルティーが通り抜けた。 「ねえ、名前」 「んー?」 答えつつも、アップルティーがストローを通り抜けていた。 「名前は気にしないの?」 「なにを?」 今度はちゃんと、ストローから口を離して言葉が返された。 ストローに名前の薄いリップの色がついていた。 「俺が飲んだものに、口を付けることを」 名前が目を細めて、笑う。 それからもう一度ストローに口をつけてアップルティーを流し込んだ。 「気にしないわけ、ないでしょ?」 ねえそれは、男として意識してもらえてる、って思っても良いの? 双子の兄としてじゃなくて、男として。 考えていると、名前がもう一度笑って、「アップルティーありがとう」と牛乳パックを返してきた。 百万回の間接キス ストローについたリップがとても綺麗で、 -------------------- PCサイトの双子企画より。 間接キスって言葉が好き。 (タイトルお借りしました:確かに恋だった) (2008/08/18) |