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明け方の電話と彼女(亮介)


『亮介ー、眠れない』


通話ボタンを押しての第一声は彼女の暢気な声だった。
夜中だというのに、眠気もダルさも感じない、普通の声だった。


「そう…俺は眠たい、というか寝てたんだけど。切ってもいい?」


少しでも長く寝て、部活の疲れを癒したいのに容赦なく電話してくる名前に冷たく言い放つと電話口から大きな声でブーイングが飛ぶ。
それが痛いくらいに耳に響いて、電話口を少し離しても名前の必死な声が聞こえた。
その大きな声もこちらが何も返答をしないと次第に小さくなっていった。耳に受話器を当てても痛くないくらいの位置に戻すと、溜息交じりの名前の声が耳についた。


『切らないでよ、頼むから…彼女の頼みなんだよ…?』
「いや、そこで彼女は関係ないと思うんだけど…」
『そんな悲しいこと言わないでよ、ね?』
「はぁ…分かった、切らないであげる」
『さすが亮介!ありがと!』
「その代わり、今度何かおごってよ」
『えー、仕方ないなあ、分かったよ、おごってあげるよ。感謝しなよ?』


仕方ないとか、感謝しろと言いたいのはこっちだ。
夜中(というか明け方に近い)も良いとこなのに、そんな時間に付き合ってあげるこっちに感謝しなきゃいけないんじゃないの?という疑問はあえて口にしないことにした。


「それでさ、名前。今何時だと思ってんの?」
『まだ夜の12時かな?』
「いや、もう3時半だから」
『うわ、ほんとだ!やっばいね、肌に悪過ぎ』
「そう思うなら早く寝てよ」


失礼かもしれないけど、肌に悪いと言っている彼女が美容に気を使っているところを一度だって俺は見たことが無い。
もしかしたら、名前だって女なんだから隠れて気にしているのかもしれない。
そう思ったらちょっと可愛いかな、なんて思った。
…でも、可愛いと思ってもこの時間に電話はやめて欲しい。


『だーかーらー、寝れないんだってば。寝れてたら寝てるから!』
「じゃあ、ゲームのやりすぎじゃないの?」
『いやいや、私倉持じゃないから。そんなにゲームしないって』


そこで倉持を出すあたりが名前らしい。


「じゃあなんで寝れないの」
『うーんとね、知りたい?』
「いや、別に知りたくない」


少し照れくさそうに言う名前に、そう言い放てばちょっと慌てた雰囲気が受話器から漏れる。
え、だとか、そんんな、とか困惑した声が零れてる。
それに気がついた本人は咳払いをして調子を整えてから、慌てた素振りのない声を出した。


『そこは嘘でも知りたいって言おうよ!』
「じゃあ…知りたい」


溜息交じりに仕方なくそう口にする。棒読みで、感情を込められてない声で。


『え、棒読み?まぁ気にしないことにする。じゃあ、ちゃんと聞いててよ?』
「はいはい、聞いてるから早く言ってよ」


少しの沈黙。けれども長く感じる沈黙。
電源切っても良いかな、なんて思い始めた頃に沈黙を破るかのように少し名前が咳払いが受話器から流れ出た。


『えーとね…亮介のこと考えてたら寝れなくなったの』


少しずつ、細く小さくなっていく声に自然に笑みが零れた。クス、と小さく声を出して笑ってしまった。
それは名前にも届いていたみたいで、「笑わないでよ!」と怒った声が聞こえた。




明け方の電話と彼女





結局朝まで電話が切れることはなくて、少しだけ眠たくて、目をこすりながら授業を受ける羽目になった。
なのに、名前はあくびも何もなく授業を受けている。
それどころかいつにも増して、元気だったりするから驚くしかない。

「たった一言、そう言ってくれればそれで責任取ったことにしてあげる」という名前の希望する一言がよほど効いたのかもしれない。


「『世界で誰よりも愛しています』…ね」


呟いた言葉は授業終了を知らせるチャイムの音に掻き消された。
そんな言葉を言って欲しいと願った名前には乙女心が満載されているのかもしれないな、と思いながら再度目を擦った。




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リアルタイムメモがあったときにそっちに載せたやつです。
けっこう書き足したり色々やりました。
おお振り夢の午前2時の贈り物とかぶってるとか気にしない。
気にしたらなんとなく負けです。



(2007/03/06)


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