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兄だとか、妹だとか、関係なくて。(水谷)


「あれ、文くんだ!」


試験期間に入り、野球部で勉強会をすることになった。毎回三橋の家にお邪魔するのも悪いから、ということで、水谷の家の近くにある2階建ての広いファーストフード店で勉強会をすることになったのだった。

各自適当に飲み物等を購入して席に着き、いざ勉強開始!と思ったら聞き慣れない黄色い声がこちらに向かって飛んできたのだった。その声の女の子は、「文くん」と呼ぶと同時に駆けてきた。一体誰のことを呼んでいるのやら、と思ったら「文くん」と呼ばれた本人が席を立った。それは左隣りに座っていた水谷だった。そういえば、水谷の下の名前は文貴だったな、と思い出しながら、さっき買ってきた飲み物を喉に流しこむ。冷たいものが喉を通る感覚は気持ち良かった。


「名前!何、どうしたの?名前もテスト期間入って友達と勉強してくるんじゃなかったっけ?」
「2階で勉強して、さっき終わったとこ。文くんが入ってくるの見えたから、急いで降りて来たんだよ」
「ありがとー、名前!すっげー嬉しい!あれ、でも友達は?」
「文くんとこに行ってくるって言ってバイバイしてきたよ。みんな今から塾があるんだって」
「そっかー。それで、名前はちゃんと勉強したの?」
「すっごいしたよ、もう頭いっぱいでヘトヘト。だけど文くん見たら元気出た!」
「ほんとにー?!すっげー嬉しい!」


流し込んだジュースの味が舌に残る中、二人の会話を聞いていた。笑顔でにこにこと会話している二人は恋人同士のように思えた。淡いパステルカラーのワンピースの彼女が笑う姿は水谷によく似ている。水谷の場合はへらへら、という笑いだけれども、彼女の笑いはにっこり、といった感じだった。
頭の中でぼんやりとそんなことを考えていたら、水谷が彼女の手を引いて笑顔をこちらに向ける。幸せいっぱい、というようなちょっと憎らしさが募る笑顔だった。


「みんなー、俺の1こ下の妹の名前だよー。よろしくー」
「初めまして、文くんがお世話になってます。妹の名前です」


ペコリ、と礼儀正しくお辞儀をした彼女のスカートがふわり、と揺れた。
なるほど妹か。それなら水谷に似ているわけだ、と納得。よく見てみれば、髪や目などが水谷に似ていた。


「水谷にも妹いたんだなー」
「へへー、可愛いでしょー」


そう言う水谷の顔が緩んで、目が細く笑む。隣りで水谷の手を握る水谷妹が頬を少し紅く染めた。たしかに、水谷の妹は可愛いと思う。人見知りなのか、先程から小さくなって水谷に後ろに少し隠れる姿が愛らしく見える。


「こんなに可愛いんだからさー、彼氏とかいるんじゃねーの?」
「いや、名前にそんなヤツいないから!な、名前!」


泉の発言に水谷が首を横に大きく振って思いっきり否定した。そして、水谷に話を振られた水谷妹は首を縦に振っていた。いてもおかしくないのに、と疑問符を頭に浮かべてしまう。


「いそうなのに意外だなー」
「え、なに、花井は名前に惚れちゃったとか?名前は俺のだからダメ!」
「ちげーよ。っつか、水谷のでもないだろ」
「えー?俺は名前大好きだよ?」
「私も文くん大好きだよ?」


えへへ、と笑う二人を見て花井が大きく溜息を吐いた。花井の溜息を吐く気持ちが理解出来た俺を含めたメンバーも小さく溜息を吐いてしまった。なるほど、シスコンでブラコンなのか、この二人。だから水谷妹は彼氏いないってわけか。そう納得したところで、頭の疑問符が消えた。

その時、水谷妹がハッとしたように手を叩いて水谷の顔を見た。


「あのさ、文くん勉強しに来たんだよね?私邪魔になるから帰るね?」
「えー!名前もう帰るの?だったら俺も帰るー!」
「文くんはちゃんと勉強してから帰ってきてね…?」


水谷に困ったような笑みをする水谷妹を察してか、このままでは水谷は勉強しないと察してか、花井がとあることを提案した。


「あのさ、妹さんも一緒に勉強してったらいんじゃねーの?テスト期間みたいだし、俺らでわかんねーとこ教えてあげれるだろ?」
「花井ナイスー!名前、そういうことで一緒に勉強してよう。な?」
「良いんですか…?えっと…花井さん?と、他のみなさんも…」
「全然構わねーよなあ?」


花井の問いに賛成の意思以外を唱えれば、きっと水谷が駄々をこねて返ってしまうことは誰もが容易に予想がついた。というわけで、みんなは賛成という選択肢以外には用意されていなかった。


「名前、みんなOKだってさ!帰りは一緒に帰ろうな!さてと、みんな勉強始めよー!」


水谷妹が「すいません」と小さく頭を下げるのと同時くらいに、なんで水谷が仕切ってんだよ、と阿部が小さく呟いた。

いざ勉強が始まれば妹に構いまくりだった水谷も静かに勉強をしていた。一方の水谷妹はどうかというと、水谷の右隣で、俺の左隣に座って水谷と同じような表情をして勉強をしていた。

しかし、数分毎に水谷が水谷妹に話しかけていた。「名前ー好きだー。名前はー?」「私も好きだよ?」とか「この中の誰か好きになっちゃイヤだからなー」「文くんしか好きにならないから大丈夫」とか、兄妹だと知らない人からしたらカップルにしか思えない会話をしていた。兄妹だとわかっていても、カップルの会話にしか聞こえなかった。最初のうちはそんな会話を聞いてると苛立ちが募っていったけれども、何回も聞くうちに慣れていった。だけれども、水谷が妹から返答を貰う度に抱きつくのはどうにかならないものか、と思った。時たま、水谷妹の方から抱きつくこともあったけど、可愛いから許せた。







帰る時間になった頃には当然ながら外は真っ暗になっていて、見上げた空には星が散りばめられていて、きらきらと光っていた。


「そんじゃ、今日は解散!ちゃんと勉強しろよー!」


花井の言葉に、それぞれが「おー!」と返事を返して、自転車に足をかけて帰路に向かう者、お持ち帰りで何か買って帰ろうとレジに向かう者、それぞれに分かれた。
そんな中、水谷兄妹はというと、妹の方が歩きで来ているということが発覚していた。家も近いということもあって、歩いて来たみたいだった。


「じゃあ、二人乗りして帰るかー!」
「うん!文くん大好き!」
「このー!名前は本当にかわいいなー」


にこやかに笑いながら抱き合う二人を遠目に見ながら思った。

――ああ、こいつらバカップルだ。

そう、思った。今日だけで何回好きだの愛してるだの聞いただろう。それはもうバカップル以外になんと例えればいいのだろう。俺にはそれ以外思いつかない。自転車に足をかけながら、呆れ気味に溜息をついたら、隣を二人乗りする自転車が駆けていった。当然ながら、水谷兄妹だ。そのときに聞こえた会話は予想通りに好きだなんだという会話だった。


「バカップルだなあ…」


俺は確認するようにそう呟いた。それから、家へと自転車を走らせた。


兄だとか、
妹だとか、
関係なくて。



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くるめちゃんとのメールで思いついたお話。
そしてくるめちゃんへの捧げもの。

勢いで書いた感な上に話のヤマもなにもない気もします。
タイトル決めるのに時間がかかった…!
ギャグなのか甘いのかなんなのか。あなたにおまかせ。
誰視点なのか、それもおまかせします。
あ、名前の出た部員ではないのはたしかですよ。

どうでもいいですが、私の近所にあった2階建てファーストフード店が4年くらい前に潰れました。


水谷大好きだー。




(2007/01/05)


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