触れたかすらも、曖昧。(亮介)
だいたいテスト期間なんてものはお遊びに使っちゃったりするわけで、当然私が自主的に勉強なんてしているはずもなく、家庭教師の先生がきたときだけしか勉強をしなかったのだった。そして今日返ってきたテストの点数はそれを物語っていた。赤点をギリギリで回避出来たのでとりあえずは良かった。私的にはね。
そして今、その家庭教師の先生が来ていて、テストを渡して数十秒、先生は固まってた。
「なに、この点数」
やっと口を開けたと思ったら第一声がそれだった。まぁ、そう言われるのは予想してました。だって小湊先生、この前のテストも同じような点数でそう言ってたからね。
「一応赤点ではないです、よ…」
「赤点かどうかが問題なんじゃない。俺が教えてるのにこの点数なのが問題なんだ」
小湊先生がテストを机の上に置いて、腕を組んでそう言った。おぉ、かっこいいセリフを言ってくれるもんだ、と思った。そう口にしてしまおうかと思ったけれどもそんな雰囲気では無かった。小湊先生の目がマジだった。ありえない、って目をしてた。
「すいません」
「謝られても困る」
だったらどうしろと。きっと、そう問えば、勉強すれば?とスッパリと言うに決まってる。だから、小湊先生の言葉に何も言えなかった。
「どうせ、俺がきたときしか勉強してなかったんでしょ?」
「う…なぜそれを…!」
「やっぱり。いい加減自分で勉強したら?」
「だってー…」
「だって、じゃないでしょ。こんな成績で大学行けると思ってんの?」
思ってます、と言おうとしたけど、言えなかった。小湊先生の顔が近づいてきて、口が、塞がれたから。小湊先生の、それ、で。それはほんの少し触れるだけで、すぐに離れたけれども、何が起こったのかを理解するまで少しの時間が必要だった。
「あの、小湊せんせ…?」
「なに?」
「今の、」
キスですよね、だなんて言えなくて、そのまま言葉はそこで止まった。その、次の言葉が出ることはなかった。
触れたかすらも、
曖昧。
だって、ほんの一瞬のことだったから。
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どことなく消化不良のような。
家庭教師じゃなくても良いじゃん!っていうのは禁句。
亮介さんが家庭教師だったら勉強できるかすら曖昧。
(2007/10/26)
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